2021-12-04

纐纈あや監督「ある精肉店のはなし」(ポレポレ東中野)を観て。 このエントリーを含むはてなブックマーク 

 住宅街の中、肉牛を屠場まで引いていき、割る(殺す)という冒頭から最後まで、片時も目が離せないほど説得力あるシーンの連続。牛、肉、皮、血、そして血族、土着民…生きとし生けるものの生と死。部落差別へのメッセージ性も、刺激的になり過ぎずにひしひしと伝わってくる。後半に訪れる屠場最後の解体シーンが、冒頭に感じたグロテスクなものよりも、なんだか愛おしく思えてきた。上原善弘の「路地の子」を読んだ後だったので、屠場という空間に殺伐としたイメージがあったのだが、意外にも暖かく感じ、一瞬『俺も働いてみようかな』とさえ思った(そうはいかないだろうけど)。それは監督の持つまなざしのせいなのだろうか。店主が牛を黙々と解体しながら屠場に差し込む陽光を見て「今日はええ天気やな」(言葉は違ったかも知れないが)と、つぶやいたのが印象に残る。公開当時から見損ねていたのだけど、いや、これは観ておいて良かった。この監督、えらいぞ。

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大倉順憲

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