夏目漱石の「草枕」からの引用。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣りにちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容て、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る。あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。
主人公のシュウジが、走るということに精神と肉体の浄化を求めたのは、若さゆえということもあろうが、詩や絵に同じことを求めていたらどうなっていたろうか。そこに浄化が生まれたのだろうか、それとも発狂したのだろうか。あまりにも悲惨だから滑稽にも感じる話の展開。
原作者の重松清が持つバックボーンは何処にあるんだろう。部落か?SABU監督の脚本、中堀さんのカメラワーク、細部に渡る美術。これ秀逸。役者も全員良い。SABU監督は、どういった演出法なんだろう。デビューの「弾丸ランナー」も良かったけど、「蟹工船」の密室はうまく描けなかったと感じた。やはり走り抜けるのが良いんだ。柄本さんの息子さんも良い。狂気をみせる大杉さんも良い。韓英恵のイロケとシャープなセリフにはゾクッときた。これ、映画館で観るべきだったなあ。