2022-05-16

佐向大監督 「夜を走る」(テアトル新宿)を観て。 このエントリーを含むはてなブックマーク 

 先日、大杉漣さんの奥様から電話を頂いた。新作映画のお知らせだった。
亡くなった大杉さんが企画していた作品だという。観に行かない訳にはいかない。
 遺作となった『教誨師』には、小振りながら昨今の日本映画には無い、目を見張る底力があったし、遺作で『死刑囚を見送る』という役柄を演じた大杉さんに、何かカルマのようなモノを見ていたからだ。

「もちろん観させて頂きます」と電話を切った後…ああ、思い出したぞ。
 近頃の若い俳優やバンドマン(アーティストと呼ぶらしいが)に活動内容などを聞くと「ホームページに載せてますンで」とか「フェイスブックにUPしてるンで、フォローしてくれます?」なんて言われることが多い。今、この場で簡単に説明、宣伝出来ないのだろうか。チケット100枚手売り劇団で育った俺には、さっぱりわからん。爪の垢でも煎じて…いかん。また若いモンへの愚痴だ。

 5月13日(金)20時10分。初日舞台挨拶。満員御礼だった。素晴らしい。平日のレイトショーで札止めの回なんて、初めてだ。もう、これだけで、この作品のスタッフ、キャストの熱量を感じる。なんだか俺まで嬉しくなり、会場内の観客に連帯感を感じてしまう。ああ、これが映画館で観る映画の魔力なんだよな。

 
 オープニングの洗車映像で、すでに胸がざわつく。
『映画を観る前に、まずお前の心を洗え』と言われているようだ。まあ、勝手な解釈だろうけど。そんなに悪い事してきたのか、俺。
 如才なく生きている男、不器用でしか生きれない男、ストレスと欲望、ムラ社会での力関係と自己喪失…すべての役柄や関係性に共感を覚え、観ていうちに、何か自分自身の半生を公開されているようにも思えてくる。そして、贖罪にも似た気持ちになってきた。どこにでもいるような人々と、あるような出来事の連続。突飛なことは、ほとんど起こらないのに、不思議な求心力のある映画だ。
それなのに、ウイットとアイロニーに満ちた数々のシーンには、ヌーヴェル・ヴァーグ時代のフランス映画を匂わせた。胃にズシンと響く良い映画だった。こういう映画、当たって欲しいなあ。

  大杉さんに頂いた遺品の眼鏡を掛けて、観させて頂いた。亡くなられて、もう4年経つのか。この映画と大杉さんの話をツマミに、同伴のご婦人と朝まで『夜を走る』に呑まれてしまう。

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大倉順憲

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