2011-03-27

ANPOを香港で見る このエントリーを含むはてなブックマーク 

現在アジアを旅している。今は香港に滞在しているのだが、偶然にも香港国際映画祭が行なわれていていくつかの映画を見ることができている。
リンダ・ホーグランド監督の「ANPO」も上映されていて、私は大阪第七藝術劇場での上映で一度見ているのだが、もう一度見に行ってみた。リンダ監督に会えるチャンスでもあるし、以前webDICEで連載したキューバ紀行にも書いたように、海外で映画を見ると現地の人のリアクションも見ることができるから面白い。3/24の19時頃の上映。会場には100人弱ほどの人が来ていた。

日本で見たANPOと、ここ香港で見たANPOはまったく違う映画に思えた。まず第一に、60年安保のデモ行進と、アルジャジーラのライブ動画でずっと見ていたエジプトの様子が重なる。当時の日本人は、今よりもっと自由にアクションを起こしていて、それはまさにfacebookやtwitter、アルジャジーラライブが見せてくれたエジプトならびに中東の様子そのものだった。スクリーンを通して見ている白黒映像なのに、60年安保運動がぐっとリアルで身近で生々しく感じられたのだ。

そして、これはANPOを見た人にも、まだANPOを見ていない人にも言っておきたい。これは、日本政府とアメリカ政府の不条理を映し出した映画であると同時に、私たち日本人がいかにして口を塞ぐようになったか、を見せてくれるドキュメンタリーだ。日本で何かを発言しようとするとどこからか流れてくる「出る杭は打つ」というあの空気。あれはこの1960年から始まっている。豊かさへの代償に、自分で考え、その考えに基づいて行動したり、人と意見を交換して議論する、そういったクリエイティブな思想を失ってしまった。
この2回目のANPOは、私に突き刺さるような衝撃を与え、気づかせてくれた。

上映の後の質疑応答で、香港の若い人たちによる質問が続いた。
私もリンダ監督に質問させていただいた。
「震災後の日本はターニングポイントにあると思う。今できる最初の一歩は何だと思いますか?意見を聞かせてください。」と。
リンダ監督は、「twitterを有効利用すること」を提案してくれた。

質疑応答の時間が終了した後、会場の外でも香港の若者たちはリンダ監督と熱心に話していた。登場するアートに感銘を受けた人、安保自体について掘り下げて質問する人もいて、本当にみんなが熱心にリンダ監督と話していた。
私にとってうれしいことは、この日のANPO上映をきっかけに知り合った香港人がいることだ。
一人はリンダ監督との会場外での会話で知り合った。彼は日本に1年住んだことがあり流暢な日本語を話す。そして安保条約についても知っていて、今の日本政府の問題点を把握している。
もう一人は、ANPO上映後の夜、twitterとfacebookを通じて知り合った。彼は上映中、私の隣の席に座っており、リンダ監督がRTしてくれた私のtweetを見て連絡をくれた。その日の上映後の質疑応答で「日本から来た」と言って質問したのは私だけだったから、私だということがわかったようだ。そして彼も同じく日本に2年住んだことがあり、サウンドアーティストでありアクティビストだ。
彼らにとって日本とアメリカの安保条約は他国のことでありながらも、本当に真剣にこの問題を捉えてくれている。恥ずかしながら私の世代で60年安保について説明できる人は数少ないだろう。こんなに生き生きとしたデモ運動が起こったことを学校はポジティブに教えてくれない。
香港に生まれ香港に住む彼らが、日本の政府について真剣に考えてくれて、日本の震災について心の底から心配してくれる。彼らに感謝を伝え、ともに良い世界にしていく方法として、今こそ60年安保から続いてきた「空気」を変えなければならないと思う。

今、放射能漏れの情報に振り回されている。政府が発表する値が正しいのかどうかわからない。原子力の専門家に尋ねても、誰に尋ねるかによって答えが違う。私たちは原子力を理解していないまま原子力発電で作られた電気を使っていた。恥であり屈辱だ。ずっと口を塞ぎ続けてきた私たちは、政府からもマスコミからもなめられている。

60年安保から50年続いたこの「空気」を入れ替えるかどうかは震災を経た私たちにかかっている。国会議員やどこかの知事がどうにかしてくれるものじゃない。60年安保の頃とは違って、私たちにはインターネット上のあらゆるツールも用意されている。大きな犠牲があったのは本当に悔やまれるが、この震災による危機は政府に真実を語らせるチャンスを与えてくれている気がする。

ちなみに今回の旅も連載させていただく予定。テーマは「カルチャー」。ご期待ください。

キーワード:

ANPO / 香港 / デモ / 震災 / twitter / facebook / エジプト


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山本 佳奈子

ゲストブロガー

山本 佳奈子

“Offshoreというサイトでアジアのインディペンデントなアート・カルチャーを紹介しています。webDICEコントリビューターとして、「キューバ紀行」「アジアン・カルチャー探索ぶらり旅」書いてました。”


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