▲旺角の交差点で集まるデモ隊。バスが立ち往生している。(写真:ERIC)
渋谷のサラヴァ東京にて、トーク・イベント「香港でいま何が起きているか?ERIC の緊急フォト・リポート!」が開催された。香港出身・東京で活動する写真家ERIC氏は、学生たちの抗議デモ隊に催涙ガス弾が投げられた2日後の10月1日に香港に入り撮影を敢行。ERIC氏の写真には日本で報道で伝えられるのとは別の視点で切り取られた学生たちの表情が収められている。当日は作家の大竹昭子氏をホストに、ERIC氏の作品をスクリーンに投影しながら、現在の香港の様子そしてERIC氏の表現活動のルーツについて語られた。
■デモのなかの香港の人々を
報道写真ではない視点で撮りたかった
ERIC:僕はこれまで3冊の写真集を出版していますが、香港に撮影に戻ったのは今回が初めてです。もともとハロウィンの時期にみんなが集まって遊ぶ様子を撮影することで、バーなどに残っている、150年間イギリスの植民地だったことによるイギリス文化の名残をどう香港の人が感じているかを表現できたらと思っていました。
その矢先に現地からデモについてメールをもらい、デモの最中香港の人たちはどのように生きていくのかを報道写真ではない視点で撮りたいと、いてもたってもいられず、10月1日から10月15日までと、10月26日から11月2日まで、2回取材に行きました。
▲渋谷・サラヴァ東京にて、ERIC氏(右)、大竹昭子氏(左)
大竹昭子(以下、大竹):こうして並べてみると、デモの写真かハロウィンの写真かわからない。原宿でだらだらと休日に座っているように、デモや座り込みをしている。これが社会の図ということですね。
ERIC:撮影のために、GoProを頭につけて、手にはフィルムカメラを持って撮影しました。デモは3ヵ所で起きて、旺角(モンコック)というアメ横みたいな庶民的な繁華街。そして銅鑼湾(コーズウェイ・ベイ)には大きなデパートがあって、ここの交差点で路面電車とバスをブロックしデモをしている。そして中環(セントラル)、ここに中国の公安の本部があるんです。銅鑼湾と中環が渋谷と新宿くらいの距離、旺角が中環から15分くらいの距離です。
▲デモ主要地域となる銅鑼湾・中環・旺角は東京でいうと渋谷・新宿・池袋くらいの距離感でデモは行われた。
▲天安門事件の追悼集会のときにはロウソクをつけていたが、みんな携帯を持って揺らしている。黄色い服を着ているのは平和の象徴。(写真:ERIC)
▲デモのリーダー、ジョシュア・ウォン (写真:ERIC)
ERIC:ジョシュア・ウォンは2年前、香港政府が愛国心という教育を中国から取り入れようとしたことに反発して、デモを起こしました。12万人が集まり、中国政府を撤回させたんです。そのおかげで人気が集まり、今回も中国政府が罠をかけているんじゃないか、僕たちは自由を求めて街に出ましょうと反発しました。
▲ジョシュア・ウォン (写真:ERIC)
ERIC:のちの報道では警察とヤクザが絡んでいて、日給8千円くらいでヤクザを雇い、やじを飛ばさせていたという噂が流れました。「この辺の住民もいる、あなたたちだけの香港じゃないよ、ここを占拠されたら生活はどうするんだ、出ていけ」と夜中の3時まで続いていたらしいです。
▲警察はデモ隊を撤去させようとするなか、彼は反デモの人たちに傘で叩かれて倒された。彼は「ここまでされているのに警察はなにもしない、立っているだけだ」とマスコミに訴えた。(写真:ERIC)
ERIC:警察は、ヤクザに挑発させて、デモする人が反撃して手を出すところを逮捕しようとした。ただ学生たちは暴力を振るったり、法律に反することをやってしまうとテントを撤去されることを分かっていたので、警察が来るとみんな傘を持つか、手を上げ無抵抗であることを主張した。
▲自分たちは非暴力であることを主張するために、デモ隊は警察に対し両手を上げる。撮影:ERIC
■賛成派市民からの支援により
デモは続けられた
ERIC:僕はフィルムカメラ1台だったこともあり、記者と言っても信じてもらえなかったので、友達に頼んで新聞記者のパスを偽造してもらい、カメラマンがするような装備をして14日、15日は撮影しました。そのおかげで、デモ隊の人から、「日本でもこのデモについて同じ報道がされているんですか?もっとこの状況を日本の皆さんに伝えてください!」と何度もお願いされました。ただフィルムチェンジのときだけは、必ず警察を背中に向けてバレないようにしていました。
14日の夜、泊めてもらっていた友人と映画を観終わって出てきたときに、FACEBOOKに「トンネルで警察が胡椒スプレーを出した」というニュースがアップされたことを知り、急いで現場に向かいました。彼らが香港政府の対応に対して思うようにいかなかったので、次の行動としてトンネルを封鎖しようとしたんです。ここから香港政府の建物の駐車場に入れるという大事なトンネルで、これが閉鎖されると行き来できない。
彼らは道路の溝を塞いでいた蓋を剥がし、後ろに結束バンドをつけて、地面に並べて車が通行できないようにしました。僕が着いたのは23時から24時くらい、みんな身元が顔がばれないようにマスクして、写っても大丈夫な格好をしていました。
▲マスクをかけ、トンネル内で蓋を並べ通行止めしようとするデモ隊の人たち。 撮影:ERIC
ERIC:彼らがつけているゴーグルやスマッグ、レインコートは全部支給されたもの。物資を支援してくれる場所に行くと水、ビスケット、チョコレート、バナナ、生活用品が全て揃っている。このトンネルに行く途中でも、「危ないから持っていって」とマスクやゴーグルが配られていました。
学生たちは学校をボイコットしデモを続けていますが、賛成派の大人たちはなにもできない悔しさと、若い者から勇気をもらっているから、何か自分たちでしたいと、お金ではなく、毛布や床に敷くマット、水、食べものを支援物資のテントに渡しているんです。
▲警官隊からの胡椒スプレーに傘で防御するデモ隊の人たち。 (撮影:ERIC)
ERIC:私服警官がたくさんいて、トンネルは出入りは自由なので、この行動に対して当局は気づいていました。トンネルの上が公園で、警察は一方を封鎖してデモ隊を反対の方面に追いだし、上と下に警官を入れて一気に追い出そうとしました。
▲警官隊に押しつぶされるデモ隊。 (撮影:ERIC)
▲「逮捕支援」と書いてあるTシャツを着た支援グループ。トンネルから追い出されて、悔しくて泣いている。彼らはトンネルに入る前に、電話番号を書いた紙を持っており、そこには「逮捕されたらこの電話番号に名前と電話番号、生年月日をショートメールで送ってください」と書いてある。(撮影:ERIC)
▲デモにはカップルで参加している学生も少なくないという。路上で支給されたビニールを被って休むふたり。 (撮影:ERIC)
▲朝方、道端で眠るジョシュア・ウォン (写真:ERIC)
▲デモが開けた朝、近くのトイレで鏡に映った自分を撮るERIC。デモに参加した人たちが朝が近くなって学校に行く支度をしている。(撮影:ERIC)
▲朝の6時半くらい、ERIC氏は残っていたフィルムでこのカットを撮影。たまたま歩いていたスーツ姿の男性の先に走って、来るのを待ち「出勤前セントラルまで歩こうとしているシーン」をイメージして撮ったという。右側のテントにも人が寝ており、デモの状況がうかがえる一枚。(撮影:ERIC)
■香港で起きていることは、
私たちと無関係ではない
ERIC:いま香港を撮っていくと、昔の香港の残像が残っていて、目の前に出てくる新しいものや人が一瞬上書きされて、保存されず流れていく。その感じを写真で表現することによって、もっと内面的な香港という街が見えてくるんじゃないかと思っているんです。
▲ERIC氏(右)、大竹昭子氏(左)
▲ハロウィンで思い思いの仮装をして騒ぐ香港の人たち(撮影:ERIC)
ERIC:僕の小さいころは旺角にはここまで中国人がいなかったし、遊びに行っていたゲームセンターや地元の洋服屋が、電気屋や漢方薬のお店に変わっている。2008、9年頃の中国政府の改革で、中国人が海外に自由に出て行けるようになった。裕福な中国人が香港の不動産を買いあさり、家賃が高騰することで香港の人たちが住みづらくなったんです。
昔は中国の女性たちが、子供に香港の国籍を持たせるために、香港の男性のところに嫁にくることが多かった。でも今は、夫婦とも中国人でも、お金さえあれば妊娠した後、香港に行って産むことで香港の国籍をもらえる。それを目当てにした「香港出産ツアー」さえあるんです。
だからデモというのは、民主運動だけではなくて、中国に押されつつ、中国に変わりつつある現状のなかで生きている香港の人たちのストレスが爆発していることの現れだと思います。
大竹:お金と権力の世界になっていることが、それを持たない人間にとってどういうことかを私は考えたくてこのイベントを企画しました。香港で起きていることは、私たちと無関係ではない、ということです。
(2014年11月15日、渋谷・サラヴァ東京にて 取材・文:駒井憲嗣)
ERIC(エリック) プロフィール
1976年香港生まれ。1997年、日本語を習得するために来日。写真店「西村カメラ」に住み込みで働きながら写真を学ぶ。代表作に『中国好運|GOOD LUCK CHINA』(赤々舎、2008年)、『LOOK AT THIS PEOPLE』(赤々舎、2011年)等。2009年第9回さがみはら写真新人奨励賞受賞。2014年9月にインドで撮影した最新作『Eye of the Vortex』(赤々舎)を刊行。
http://ericolour.com
大竹昭子(おおたけあきこ) プロフィール
1950年東京生まれ。作家。小説、エッセイ、批評など、ジャンルを横断して執筆。小説に『図鑑少年』『随時見学可』『鼠京トーキョー』、写真関係に『彼らが写真を手にした切実さを』『ニューヨーク1980』『この写真がすごい』など。朗読イベント「カタリココ」を開催中。
http://katarikoko.blog40.fc2.com
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中共が武力鎮圧しない限り香港は必ず勝利する!リム・カーワイ監督による民主化デモ現地レポート(2014.9.29)
http://www.webdice.jp/dice/detail/4407/