ギリギリの生活を送っているワケありのシングルマザー同士が出会い、不法移民を密入国させる危険な裏ビジネスに手を染めるようになる…というこの映画。「タランティーノが絶賛」という評判と共にようやく上陸ということで!
…色んな意味で境界線越えを描いた作品なのだと思った。
冒頭、シワの多い、生活に疲れ切った中年女性の顔が映し出される。頬を伝う涙…。クリスマス直前だというのに、待望の新居を購入するために貯めていたお金をギャンブル狂の夫が持ち逃げしたのだ。
さらに、カメラは室内の雑多に並べられた化粧品のボトル類を映し出す。女性のタトゥが残るボディ、ボロボロの顔でそれでもマスカラを塗るシーン…こういうの、女はつらいんだよね。だって、綺麗にしていたくない女なんていないと思うから。生活を切り詰めるということは美しくできなくなるということを意味している。女は、優雅に暮らしてこそなんぼだと、心の底で知っている動物なんだと思う。
でも、追い詰められれば、何だってせざるをえない。しかも母親なんだもの。そして、この厳しい極限状況によって信じられないほどの行動力を生み出し暴走することだってできる。女はたくましいと言われているのだ。
…そして、実際にこの映画に出て来る女たちは強くなる。タフな女たちのハードボイルド・アドベンチャー(全体的にフローズンな寒さに包まれつつ、心温まるエピソードもまったくないわけではない)。
カナダとの国境に面し、モホーク族の保留地を抱えるニューヨーク州最北部の町で、5歳と15歳の息子を育てながら1ドルショップで働く白人女性のレイ(メリッサ・レオ)と、夫を失い義理の母に幼な子を奪われ、保留地のビンゴ場で働きながらトレイラーハウスに暮らすモホーク族のライラ(ミスティ・アップハム)。
この2人が、最初は立場の違いや偏見などから不協和音を生じながらも、凍った河を越えるように、様々な違いをも越えて(現状は決して容易いものではないけれども)一筋の光を目指していく…
レイの方がいざとなると強引に突き進んでいく気性の激しさがあり、ライラは案外消極的で弱気なところがあるのだが、様々な試練を乗り越える過程で、レイは思いやりをいっそう深め、ライラは強くなる。
穏やかな生活さえあれば必要のなかった成長ではある…と思うと複雑な気持ちになるが、今現在、安心して暮らせる人はどのくらいこの地球上にいるだろう?
(2010年正月第二弾、シネマライズほか全国順次公開)