TAQACYはこれまでに主にバンド形態とソロとで活動してきていて、
現在、彼のバンド「それ以染(いぜん)に」は活動休止中だから、この日はアコギによるソロの弾き語りです。
彼は、好き好き大好き! だの会いたい見たい抱きしめたい! だのといった、
世の中に蔓延している安直なラブソングは絶対に歌いません。
しかし、出してくる音にも、言葉にも、非常にストレートなところがあり、
そのナイーブ過ぎる歌詞には時にはらはらさせられることも。
叙情性も、起爆力も、メッセージ性も、自身の表現の中に十分に持った人です。
そんな彼が最近よく歌っている自分の歌のひとつに、『老人と池』というのがあって、
これはNHKの『みんなの歌』に出てきてもおかしくないような、かわいらしい歌なのだけど、
この歌を聞いていると、どうしても私の心には浮かんできてしまうある言葉があって、
その言葉をつい口ずさみそうになる。
それは、次のようなお経の一節(!)。
「紅顔いづくへか去りにし、尋ねんとするに蹤跡(しょうせき)なし」
(『修証義』)
この言葉の前には、
「身すでに私に非(あら)ず、
命は光陰に移されて暫(しばら)くも停(とど)め難し」
という言葉がついていて、
自分は仏道の血筋なんでつい呼び起こされてしまうのかも知れないけれど、
簡単に言えば、
無常な時の流れの中で人は老いやすく、気づいた時にはかつての面影は跡形もない、というような意味であって、
なぜこの言葉が思い浮かぶのかというと、
この歌が、少年が老人の姿を通して永遠を願っている歌のように聞こえるから。
一人の老人が池で釣りをしている。
来る日も来る日も飽きずに釣りをするその姿を、
やはり一人の少年がどこからかじっと見つめている。
歌詞を一部引用すると、
「僕は知っている 昨夜の大雨で
大きな池ができたことを
僕は知っている その水たまりに
魚もなにもいないことを
(中略)
僕は知っている だけど言わない
あした あさっても 老人はそこにいるだろう
老人はだんだんと石になってゆく
石になってゆく」
この歌は一見、少年が老人を思いやってなにも言わずにいる歌のようであるけれど、
ここでは少年と老人は実は等価のものであり、少年は老人そのものであり、老人は少年そのもの。
来る日も来る日も魚がいるかもわからない池で釣りを続ける老人は、
空しいかも知れない日々の行為をくり返している今の少年の姿かも知れず、
少年は心のどこかでそのことを知っている。
だから、最後に歌われる「小さな池よ まだそのままでいて どうかそのまま」という言葉は、
老人のためというよりも、むしろ少年の願いそのものであって、
老人が釣りをしている姿のまま最後には石になっていくのも、
おそらくはそうやって楽しい気持ちのままで永遠にこの世に留まっていたい、というような少年の心に潜む思いなのだろう。
そうやって聞くと、老人の姿と少年の姿とが時空を超えてすっと重ね合わさってしまって、
空しさと共に、かえってそこに1本の道が通っているのが見えなくもない気がするのだけれど、
でも、人が年を重ねていくことにまったく恐れがないと言ったらうそになるから、
やはり、一抹の揺らぎのようなものを感じさせられる。
雨だれの音のようなメロディーと共に、危うい感じのする曲です。
このような歌を紹介すると、
TAQACYはこういった寂しい歌ばかりを作る人なのかな、と思われそうだけれど、
ギターによる弾き語りだからおそらく叙情的な面が出てきやすいだけであって、
バンドの曲はかなり躍動的で、高揚感をもたらしてくれるものがいっぱいあります。
『化石にレクイエム』とか、『地獄逝き』とか。『スパイア』なんて曲もそうだった。
元々は彼がずい分前に作った『カウントダウン』という別れにちなんだ歌をMy Spaceで聞いた時、
気づかぬうちに心の底まで届いてしまったものがあり、
それから彼のバンドを見に行くようになったのだけど、
その歌で歌われている悲しいという感情への率直さや、
死にゆく存在である人間というものに対する不条理感は、
やはり彼ならではの表し方だと思うし、そういったものを正面から歌い上げている姿はとてもすばらしいです。
ただ、ふしぎとこの頃より今の声のほうが幼く聞こえるのはなぜなんだろう?
ヘンテコな妖精のふりをしたりするけれど、中身は反骨のハンバーグでもあり、
ミンチになっているだけにぐしゃぐしゃなところもあるかも知れませんね!
写真はTAQACY作珍獣拓(2012年)
どうやら魚と、野菜と、そのほかでできている動物の拓本のようです。
TAQACY『楽園』PV
https://www.youtube.com/watch?v=8mF7t4OCtqk
TAQACY petit HP
http://www.geocities.jp/soreizenni/tqc.htm
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Reiko.A presents 第7回JIZAIKAN「歌と、ギターと、言葉」
12月22日(日)at 蒲田Studio80
当日の詳細についてはこちら。
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