(ネタバレ有りです)
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エンディング直前。
大人のパイ・パテル(主人公)が、物語の総評をする部分で
立川談志師匠の「イリュージョン」を感じさせる展開が現れます。
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以下、立川談志「人生、成り行き」より引用。
「でも、落語が捉えるのは〈業の肯定〉だけではないんです。
人間が本来持っている〈イリュージョン〉というものに気がついたんです。
言葉で説明できない、形をとらない、ワケのわからないものが
人間の奥底にあって、これを表に出すと社会が成り立たないから、
〈常識〉というフィクションを拵(こしら)えてどうにか過ごしている。
落語が人間を描くものである以上、そういう人間の不完全さまで
踏み込んで演じるべきではないか、と思うようになった。」
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船の所有国である日本の保険員が
「会社に報告するため」に、転覆から遭難までの経緯を尋問する際、
パイのイリュージョン(または常識)は加速を始めます。
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海は宇宙であり、船は宇宙船です。
また、礼拝のマットでもあり、大陸でもあります。
パイ(人間)は、雲の切れ間から
「何か」に触れたことにより神の視点で俯瞰され、
ミクロとマクロの反芻(はんすう)が発生します。
陰と陽。業の肯定と否定。
孤独では生きていけないからこそ、
また、大切な物を沢山失い過ぎてしまったからこそ、
パイ自身の心の中で、物語が産まれていきます。
私たちも、人に話すことで本質を理解することがあると思います。
パイの物語は、まさにベッドの上で確立され、
そこに感動が生まれます。
〈常識〉と〈イリュージョン〉。
どちらが事実だったのか、を問いただすのは野暮な話です。
われわれ体験する側が感じた事、それぞれが正解であり、
本作の醍醐味があるのだと思います。