2月10日(月)、座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルで、『セメントの記憶』(ジアード・クルスーム監督)上映後のトークイベントに登壇した配給会社サニーフィルムの有田浩介氏は、同社の次回配給作品を発表し、会場でその予告編を公開した。
この度、サニーフィルムが配給権を取得したのは、カンヌ映画祭で二度の受賞経験があるウクライナの映画監督セルゲイ・ロズニツァ(Sergei Loznitsa)の『State Funeral』(2019)、『The Trial』(2018)、『Austerlitz』(2016)のドキュメンタリー3作品だ(いずれも英題)。
セルゲイ・ロズニツァの名前は、すでに日本の映画祭関係者やシネフィルのあいでは話題になっており、劇場公開を望む声が多数寄せられていたが、今回待望の日本初公開となる。
ロズニツァは、1964年にベラルーシで生まれ、ウクライナの首都キエフで育つ。大学では数学を学び、映画監督を志す前は、科学者としてウクライナの研究所で人工知能の研究に携わっていたという異色の経歴を持つ。その傍ら、日本語を学び、日本語の翻訳の仕事をしていた時期もあるという。1991年、ソ連崩壊後、モスクワの全ロシア映画大学に入学し、ソクーロフ以降の新しい才能として注目され、1996年よりこれまで21本のドキュメンタリーと4本の長編劇映画を発表している。
ロズニツァの名前が世界的に知られるようになったのは、2010年に初の長編劇映画『My Joy』が、カンヌ映画祭のコンペティション部門に選出され、ウクライナ映画として初めてパルムドールを争ってからだ。以降、4本の長編劇映画は全てカンヌ映画祭に選出され、2012年に『In the Fog』がコンペティション部門で国際批評家連盟賞、2018年に『Donbass』がある視点部門で最優秀監督賞を受賞している。また、近作10作品全てが三大映画祭に選出されるという快挙も成し遂げている。
すでに長編劇映画において世界的な評価を確立しているロズニツァだが、その真骨頂は、なんといっても90年代から発表している驚くべきドキュメンタリーの作品群だ。その多くは、ロシアを舞台としており、静観的な態度で民衆を描き、何よりも映画的感性と詩情に満ち溢れている。
昨秋、欧州最大のドキュメンタリー映画祭として知られるアムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭(IDFA)で、ロズニツァの最新作を見たサニーフィルムの有田氏は、「海外の野心的なドキュメンタリーにこだわって配給をしていますが、ロズニツァの作品は、形式的にも内容的にも、これまで見たことがないタイプのドキュメンタリーでした。紛れもなく天才的な映画監督がいると確信しました。日本では未公開のこの映画監督のドキュメンタリーをぜひ日本で紹介したい」と思い、ロズニツァのドキュメンタリーを一挙に3本、配給することを決断したという。
これまで10か国以上の映画祭やシネマテークでレトロスペクティブが開催されるほど世界的に高く評価されているロズニツァだが、日本では紹介される機会はなかった。現在、パリのポンピドゥー・センターでもロズニツァの全作品上映(全25作品)が開催中である。
2020年秋、満を持してロズニツァの最新作を含む3本のドキュメンタリーが日本初上陸する。
セルゲイ・ロズニツァのフィルモグラフィ
(近作10作品、F=フィクション、D=ドキュメンタリー)
2010『My Joy』(F)第63回カンヌ映画祭コンペティション部門
2012『In the Fog』(F)第65回カンヌ映画祭コンペティション部門 国際批評家連盟賞
2014『Maiden』(D)第67回カンヌ映画祭 特別上映
2015『The Event』(D)第72回ベネチア映画祭 正式出品
2016『Austerlitz』(D)第73回ベネチア映画祭 正式出品
2017『A Gentle Creature』(F)第70回カンヌ映画祭コンペティション部門
2018『Victory Day』(D)第70回ベルリン映画祭フォーラム部門
2018『Donbass』(F)第71回カンヌ映画祭ある視点部門 最優秀監督賞
2018『The Trial』(D)第75回ベネチア映画祭 正式出品
2019『State Funeral』(D)第76回ベネチア映画祭 正式出品
日本語ホームページ
https://www.sunny-film.com/sergeiloznitsa
(取材・文/吉田孝行)
カンヌ映画祭で二度受賞のウクライナの映画監督セルゲイ・ロズニツァのドキュメンタリー3作品をサニーフィルムが配給権取得!
http://webneo.org/archives/47894
https://cinefil.tokyo/_ct/17340035