骰子の眼

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2021-04-21 15:34


本好きの“良き変人”たちと稀少本の世界紐解くドキュメンタリー映画『ブックセラーズ』

“古本屋の街”UPLINK吉祥寺でも公開、NY在住のD・W・ヤング監督インタビュー
本好きの“良き変人”たちと稀少本の世界紐解くドキュメンタリー映画『ブックセラーズ』
映画『ブックセラーズ』© Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved.

世界最大規模のニューヨークブックフェアの裏側から本を愛するブックセラーの世界を紐解き、日本の本好きに大きな注目を浴びているドキュメンタリー映画『ブックセラーズ』が、「世界 本の日」である4月23日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。webDICEでは、ニューヨーク在住のD・W・ヤング監督のインタビューを掲載する。


「歴史的にアメリカの希少本の世界は長く男性が支配していたと言えます。とても古い世界です。もちろん古いからこその良さもあるけれど、悪い面もあって、撮影前からその両方を描くことが大切だと思っていました。本の世界における女性たちの位置がわかるように描かなくては、またレベッカ・ロムニーなど今の若い女性ブックセラーたちを知って、彼女たちが何を考えて何を知って欲しいと思っているかを伝えなくてはと思いました」(D・W・ヤング監督)


ブックセラーたちは“良き変人”

──企画が持ち込まれた時すでに、ブックセラーを撮ったら絶対に面白くなるという確信はあったのですか?

イエス。ブックセラーたちは“良き変人(GOOD WEIRED)”ですからね。プロデューサーのダン・ウェクスラーから話を聞いたとき、僕も妻のジュディスも(プロデューサーのジュディス・ミズラキー)、二人とも本好きで書店によく行くし、ニューヨークブックフェアにも行っていたので、ブックセラーたちが変わり者だけど聡明で素晴らしい人物たちだと知っていました。でも、映画を撮ることになって一番感じたのは、本そのものがとてもヴァラエティに富んだ視覚的な存在だということ。その視覚的な強さを感じて、これは良い作品が作れると確信しました。また、製作者としての確信だけでなく、親族(叔父・叔母)が本の世界で働いていたという個人的な思い出から、本にとりわけ愛情を持っていたので、この映画は絶対やるべきと思いました。

映画『ブックセラーズ』© Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved.
映画『ブックセラーズ』D・W・ヤング監督

──本は身近な存在だったんですね?

実は映画をやろうと思う前は、作家になりたかったんです。読書歴で言えば、小さい頃は、他の子供たちと同じように『指輪物語』が好きな子供でした。その後、サイエンス・フィクションやサイバーパンクに夢中になって、ウィリアム・ギブソンなどを読みまくりました。大学時代に影響を受けたのはサミュエル・ベケットや、論文を書いたトマス・ピンチョンなどですね。

──この映画は、撮影した素材とともに資料映像や様々な文章の引用など多様な素材を使いながら、見事に構成されていますね。

最初から明確な青写真があるわけではなかったんです。でも、これはやりたいこれは入れたいというイメージはスタートからありました。それが良かったと思います。ブックセラーたちを撮影していく中で、あまりに学ぶことがたくさんありすぎて。最初のイメージがなかったら溢れきってしまって大変なことになっていたと思います。もちろんイメージは緩やかなものだったので、撮影を経験しながら、有機的(オーガニック)に内容が変わってきて、今の形になりました。

映画『ブックセラーズ』© Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved.
映画『ブックセラーズ』© Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved.

──製作期間は?

撮影開始から完成するまで3年かかりました。撮影に2年、編集に1年、ポスプロは2-3ヶ月といったところです。編集期間中も足りないと思ったら、また撮影をしたり。

──要所要所に登場するフラン・レボウィッツのシーンは、日本でも笑いが起きたりして素晴らしいアクセントになっていますが、彼女を起用するアイデアはいつ頃?

アメリカでもフランの場面では笑いが起きるんですよ。彼女が本の世界でとても象徴的な存在だということは妻も僕ももちろん知っていましたが、個人的な知り合いではありませんでした。撮影が3分の2ほど進んだ時に、ブックセラーの世界を描くにはそこから少し距離のある人物の視点が必要だと思ったんです。内側からだけだと語りにくいこともあるでしょうし。フランは作家で評論家でコメンテーターで、ニューヨークの本の世界の偉大な人物で、さらに歯に衣着せぬ発言で有名です。それでフランが最適な人物だと思い、オファーしました。こういう理由であなたが必要なんですと正直に話したら、彼女はすぐにOKしてくれました。

──エンド・クレジット後の彼女の言葉は撮影していて「ワオ!」だったのでは?

そう(笑)。でも、撮ったときは「すごく面白い!」と思ったんですが、ブックセラーに関わる話ではないので使い道があるんだろうか、どこに使ったらいいだろうと悩みましたね。エンド・クレジット後に入れたら、うまくいきました。ニューヨーク映画祭でも観客の皆さんがあのエンディングが大好きだと言ってくれました。

映画『ブックセラーズ』© Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved.
映画『ブックセラーズ』© Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved.

本の業界に女性の存在は必要不可欠

──この映画はブックセラーの歴史も紐解きつつ、あまり知られていなかった女性の存在、そして新しい動きとしてヒップホップのコレクションを取り上げていますね。

歴史的にアメリカの希少本の世界は長く男性が支配していたと言えます。とても古い世界です。もちろん古いからこその良さもあるけれど、悪い面もあって、撮影前からその両方を描くことが大切だと思っていました。本の世界における女性たちの位置がわかるように描かなくては、またレベッカ・ロムニーなど今の若い女性ブックセラーたちを知って、彼女たちが何を考えて何を知って欲しいと思っているかを伝えなくてはと思いました。考えてみれば、今はどの業界でも女性たちの存在は認められているので、本の世界ではどうだったのか、それは入れなくてはならない内容ですよね。本の業界に女性の存在は必要不可欠なんですから。
ヒップホップについては、撮影前には何も知りませんでした。まさかヒップホップが希少本の世界に関係あるなんて思ってもいませんでした。たまたま、アーサー・フルニエを撮影しているときに、彼がヒップホップのような新しいものをやっているブックセラーもいるよと教えてくれてシリータを紹介してくれたんです。これがまさしく今、起きていることだと思い、映画に入れることにしました。

映画『ブックセラーズ』© Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved.
映画『ブックセラーズ』© Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved.

──書店が減っていく現状と、一方でインディーズ書店が登場してきた様子が描かれますが、今のニューヨークの書店状況を監督はどう見ていますか?

ニューヨークでは90年代頃から自分たちの好きな書店がどんどん消えていってしまい、寂しいという気持ちは確かにあります。ことに希少本の書店となると、ほとんどが書店をやめてアポイントメントで商売するようになり、書店として残っているのは1-2軒かもしれません。でも希望があると感じています。ニューヨークでは、それは4-5年前に“突然のように”現れたんです。小さくて、専門分野があって、本をキュレーションしている店。そしてそれをKindleなどではなく、そこへ行って実際に本を手にとってみることができる。映画に登場したレフト・バンク・ブックスのような書店が増えているんです。楽観的な視点として、この新しい動きが希望だと思いますね。でも、正直に告白すると、迷うくらいに大きくてたくさんの本で溢れた書店がなくなったのは寂しいかな。

映画『ブックセラーズ』© Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved.
映画『ブックセラーズ』© Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved.

ブックカルチャーと猫には伝統的につながりがある

──目眩のするような希少本が次々現れますが、撮影していて監督が一番興奮した本は?

うーん、選ぶのは難しいですね。個人的にSFが大好きなので、その意味で言えば、ヘンリー・ウェッセルズが見せてくれたウィリアム・ギブソンの本かな。本の装丁が当時の人たちが思い描く未来になっていて、「この本欲しい!」って思いましたね。それからジェイ・ウォーカーの図書館で撮影した宝石の本は、まさに文字通り目がクラクラ!あともちろん、人間の皮膚で作った本を見たのは人生で初めてでしたよ(笑)!!

──ところで日本の神保町をご存知ですか? 500軒くらいの書店がある町なんですよ。

ええ、教えてもらいました。まだ日本に一度も行ったことがないんですが、いつかぜひ行きたい!

──日本版のポスターをすごく気に入ってくださいましたね。

動物全体が好きなんですが特に猫が好きで、日本版ポスターを羨ましく思ってるんですよ。僕らもポスターに猫を入れたかったんだけど、なぜかアメリカでは受け入れられなかったんです。ブックカルチャーと猫には伝統的につながりがあると思っています。きっと日本でもそうなのでは?猫はミステリアスで、本と同じでいつも発見がある。猫はこの映画の物語の一部だと言えますね。いまはシェルターにいた保護猫を引き取って飼っています。名前はステラ。不思議なんですが、僕は犬も大好きなのに犬が本の上で寝ていると「あっちに行きなさい」って言いたくなる。でも猫が本の上に寝そべっていても何故だか怒る気にならないんです(笑)。

(オフィシャル・インタビューより)



映画『ブックセラーズ』© Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved.
映画『ブックセラーズ』© Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved.

映画『ブックセラーズ』
4月23日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

監督・編集:D・W・ヤング
製作総指揮&ナレーション:パーカー・ポージー
アメリカ/2019年/99分
配給:ムヴィオラ、ミモザフィルムズ

映画公式Twitter https://twitter.com/booksellerseiga

映画公式Facebook https://m.facebook.com/booksellerseiga/

公式サイト http://moviola.jp/booksellers/


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公開初日4/23(金)は「世界 本の日」。1万円分の選書を届ける「ブックカルテ」プレゼントなどキャンペーンを実施します。

実施劇場:ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、横浜シネマ・ジャック&ベティ、伏見ミリオン座、シネ・リーブル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸、福岡 KBC シネマ

①1万円の「ブックカルテ」サービスが当たる。提供:ホンシェルジュ

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▼映画『ブックセラーズ』予告編
▼『ブックセラーズ』監督&NYのブックセラーからのメッセージ動画

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