骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2020-04-02 18:00


パンク&レゲエで人種差別を撤廃せよ!70年代イギリスのムーブメント追う映画『白い暴動』

監督語る「実際に行動することは、自分たちの仲間を見つけさえすれば、意外と簡単なんだ」
パンク&レゲエで人種差別を撤廃せよ!70年代イギリスのムーブメント追う映画『白い暴動』
映画『白い暴動』Photograph by Syd Shelton

1970年代のイギリスで、音楽そして雑誌により人種や生まれによる差別の撤廃を主張した団体“ロック・アゲインスト・レイシズム”を描くドキュメンタリー『白い暴動』が4月3日(金)より公開。webDICEではルビカ・シャー監督のインタビューを掲載する。

映画は経済破綻状態にあり、市民たちの不満が移民へ転嫁されていた当時のイギリスで、自主差別撤廃を掲げた若者たちの活動がザ・クラッシュをはじめ、トム・ロビンソン、スティール・パルスといったミュージシャンたちの音楽と結びつき支持されていく過程を捉えていく。70年代イギリスを舞台にした音楽映画は数多くあるが、今作はアーティストの音楽性よりも、排外主義が広がる社会にどのようにしてメッセージを人々に伝えていくか、草の根で活動を続ける人々の活動にフォーカスが当てられている点が特徴だ、当事者たちのインタビューのほか当時のニュース映像などが盛り込まれた構成により、シャー監督は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の不安が止まない現在の世界で、他者を思う心そして自分の声で発言することの大切さを伝える。


「ブレグジット然り、トランプによる移民政策然り、グローバルな意味での右傾化もそうですし、様々な国、地域でも色々な事が起き始めているので、この作品を作り続けなければならないと思いながら制作しました。同時に、70年代に行動を起こしたRARから、現在の私たちはきちんと学んでいないのだと感じました。彼らが発信したメッセージを、今の時代に再び分かち合うべきで、学び合わなければいけないと思います」(ルビカ・シャー監督)


2020年を生きる私たちにとっての意味

──本作を制作した理由について、アジア系英国人が直面した人種差別についてご自身の家族から話を聞いてもっと詳しく知りたいと思ったのがきっかけだと聞きましたが、当時の歴史や社会の中からRARを映画の題材に選んだ理由を教えてください。

70年代、昔は今よりも暴力が日常にあり、差別も色濃い時代でした。私の父親やアジア系の友達が追いかけられたり、攻撃されたりした話を聞いたことがあり、知り合いが椅子に画びょうを置かれた事も聞いたことがあります。デイヴィッド・ボウイの短編『Let’s Dance : Bowie Down Under』を制作していた時、様々な記録映像を調査する機会があり、そこで製作チームから70年代が舞台で、今までのドキュメンタリー作品で扱われてこなかった題材、大きな歴史というよりかはパーソナルなテーマで新たな作品を作ろうという話になりました。78年4月30日カーニバルの映像に目が留まり、それがロック・アゲインスト・レイシズムによるものだという事を知りました。映像を見て、なぜ10万人もの人がイギリス中から集まり、トラファルガー広場からヴィクトリアパークまでの15マイルの距離をも皆が1つになって歩いたのか、その出来事が一体どうやって起きたのか、知りたいと思うようになりました。そして、この歴史的事実を知っている人は今ほとんどいないので、それが製作の発端となりました。

映画『白い暴動』ルビカ・シャー監督
映画『白い暴動』ルビカ・シャー監督

RARをより深く掘り下げていく中で、私が一番興味を持ったのは、わずかな人たちが行動を起こした事で、こんなにも大きな結果に繋がるという事です。これは本作を作るモチベーションにもなりました。世界中で起きている変化、ブレグジット然り、トランプによる移民政策然り、グローバルな意味での右傾化もそうですし、アジア、オーストラリア、ヨーロッパに限らず、自分が想像もしていなかったような国、地域でも色々な事が起き始めているので、この作品を作り続けなければならないと思いながら制作しました。

同時に、70年代に行動を起こしたRARから、現在の私たちはきちんと学んでいないのだと感じました。彼らが発信したメッセージを、今の時代に再び分かち合うべきで、学び合わなければいけないと思います。2020年を生きる私たちにとってまた新しい意味をこの物語に込めました。

映画『白い暴動』photograph by Syd Shelton
映画『白い暴動』photograph by Syd Shelton

当時の英国のリアルな声を大切に

──RARのムーブメントは、1978年4月30日の大行進とフェスティバル以降、続いていくと思います。バズコックスやエルビス・コステロが参加したと思いますが、彼らにもインタビューをされたのでしょうか。また、制作過程で1978年4月30日に焦点を当てた理由をお聞かせ下さい。

RARの映像の中で4月30日のカーニバルのアーカイブが一番わくわくするものであり、たくさんの人にとって初めて見る映像になると思いましたし、ギグだけでなく会場に辿り着くまでの道のり、人々がどのようにして集まったのかを見せると面白いと思いました。沢山の人が共通のものを思って行進する様子は私の一番のお気に入りのシーンであり、作品にとって一番の見どころになると思いアーカイブとして沢山使用しています。また、クラッシュの『ルード・ボーイ』の幾つかのシーンでお気に入りの部分があり、その映像を取り入れられた事は個人的にとても嬉しかったです。

映画『白い暴動』
映画『白い暴動』

RARの物語は続けようと思えば永遠に続けられるものだと思います。ただ作り手としてはどこかで終わらせなければいけない、その終わりをどこにするか決めるとき、ムーブメントが始まってからの2年間、大事な発端の部分に焦点を当てようという事になりました。エルビル・コステロ等はRARのムーブメントの後半辺りに参加したアーティストたちであった事、また沢山いるインタビュー候補の中から限られた人たちを選ばなければいけなかった事もあり、インタビューは叶いませんでした。難しい判断ではありましたが……。誰にインタビューするかは、当時の英国のリアルな声、というのを大切に選んでいきました。

映画『白い暴動』Photograph by Ray Stevenson
映画『白い暴動』Photograph by Ray Stevenson

実際に行動することは、自分たちの仲間を見つけさえすれば、意外と簡単なんだ

──監督自身はRARに参加したことはありますか。

私は参加したことはありませんが、RARの精神はいまや世界中に草の根的に拡がっていますよね。目的や思想は違いますが、Extinction Rebellionなどの環境程団体もそうですし、スウェーデンやアメリカ、世界中に同じようなムーブメントがあり、先日この作品の上映が行われたベルリン国際映画祭でもRARの精神を受け継いだムーブメントがあり、それらを目の当たりにする機会はあります。

──RARが立ち上げたムーブメントは現代でも続いているのでしょうか。彼らの現在についても聞けるようであれば簡単に教えて頂きたいです。

レッド・ソーンダズとロジャー・ハドルの2人は、今でも活動家として反人種差別を訴える活動を続けています。またそれぞれ芸術家としても活躍しています。レッドは映画監督と写真家でもあります。

映画『白い暴動』
映画『白い暴動』

──先日のベルリン国際映画祭でスペシャル・メンション賞を受賞されたとお聞きしました。おめでとうございます。現地での反応はいかがでしたでしょうか。

胸をうたれる素晴らしい反応を頂きました。予想だにしないくらい、こちらが圧倒されるくらいのポジティヴな反応が得られました。上映後のQAでも若い観客から様々な質問があり、1時間にも及んだのですが、その点についてはとても嬉しかったです。この作品は年齢に限らず幅広い人々に響いて欲しい作品なので、実際にそれを経験できた事は喜ばしい事です。

──日本でも試写会で映画を観たメディアからは、「この映画がとてもタイムリーなものに感じた」という感想が多いです。日本は今年オリンピックが開催される予定だった事もあり、ここ最近で外国文化や多様性を受け入れる風潮が特に強くなっています。人種差別撤廃を叫んだRARを題材とした映画を撮った監督として、日本人にこの映画をどう見て欲しいか、何を感じて欲しいでしょうか。

何か共感できるような作品であって欲しいです。もちろん楽しんで頂くのが一番ではあります。特に音楽の部分、昔からのパンクファンにはたまらない作品だと思いますし、パンクをあまり知らない人でも、新しい音楽を発見するきっかけにもなればと思います。楽曲を知る機会になったらなと思います。若者含め、自分で何か言いたい事があれば、声をあげて行動に移す、その参考にして貰えたら嬉しいです。実際に行動することは、自分たちの仲間を見つけさえすれば、意外と簡単なんだ、という事を感じて貰えたらと思います。

(オフィシャル・インタビューより)



ルビカ・シャー(Rubika Shah)

イングランド系オーストラリア人のジャーナリストであり、BBCニュースで芸術や文化に関するテレビ番組を制作を行っている。初の短編映画『Liberty de Liberty』は、オーストラリアのバイロンベイやセントキルダなどの映画祭で上映された。彼女の映画『Let's Dance. ボウイ・ダウン・アンダー』は2015年のベルリン映画祭ジェネレーション・プログラムで特集された。本作はBFIロンドン映画祭2019で最優秀ドキュメンタリー賞受賞、第70回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門14plusでスペシャル・メンション賞受賞。




映画『白い暴動』
映画『白い暴動』

映画『白い暴動』
4月3日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺他にて 全国順次ロードショー

監督:ルビカ・シャー
出演:レッド・ソーンダズ、ロジャー・ハドル、ケイト・ウェブ、ザ・クラッシュ、トム・ロビンソン、シャム 69、スティール・パルス
2019年/イギリス/英語/84分/カラー

公式サイト


▼映画『白い暴動』予告編

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