2013-01-01

「草食系」にさえなれない「植物人間系男子」-Super Ganbari Goal Keepers「ルサンチマン・エクスプロージョン」- このエントリーを含むはてなブックマーク 

2012年のベスト・アルバムをあげるとするなら、
転校生のデビュー作「転校生」、
ザ・なつやすみバンドの1stフルアルバム「TNB!」、
そしてSuper Ganbari Goal Keepersの1stミニアルバム「ルサンチマン・エクスプロージョン」、この三枚に尽きる。
とりわけ最後に挙げたSuper Ganbari Goal Keepersのデビュー作は、2012年に国内で発表された数多くのアルバムの中でも、最も重要なもののひとつだと言い切れる。

“自分に自信のない、さえない若者(もちろん童貞)による、悶々とした日常。
しかもそれは学生ならまだしも、社会に出ても延々と続く。
もしも音楽をやっていなかったら、世間という名の重圧に耐えられるだろうか、
つまらないことばかり待っている世の中と分かっているのなら、その残された時間で自分の歌を鳴らしたい。
そのために作ったバンドが super ganbari goal keepers。”
http://sggkeep.tumblr.com/

そんな彼ら、Super Ganbari Goal Keepers(以下SGGK)がライブ活動を開始したのは2011年。その後、幾度かのメンバー・チェンジを経て現在の編成はショウヘイマン(vo.g)、オニギリジョー(g,cho)、abayama(ba,cho)、淋梅毒(dr,cho)の四人。

そのサウンドは、The SmithsやPavementといったUK/USインディー・ロックからの影響を強くうかがわせるが、国内外に存在するそれらのバンドの凡百のフォロワーと彼らが一線を画すのは(先ほど引用したバンドの紹介文からも滲み出ている)童貞臭あふれるその詞世界にある。
「いつも部屋で ありえないくらい しごいている」と歌う「テクノブレイカー」や、タイトルからしてそのものずばりな「チェリーマンの逆襲」といった楽曲に漂う、どうしようもないイカ臭さ。
それはSGGKが、筋肉少女帯を率いる大槻ケンヂが先鞭をつけ、銀杏BOYZの峯田和伸によって確立された、DTK(=童貞をこじらせた)スピリットの忠実な継承者であることを示し、そのことは例えば「グミ・チョコレート・パイン」という楽曲のタイトルや、「ボーイズオンザランを地で行きたい」という発言
http://shinorock.tumblr.com/post/22044560335/super-ganbari-goal-keepers
からもうかがえる。

だがしかし、大槻ケンヂの楽曲を貫くおどろおどろしいまでの情念や、銀杏BOYZの汗臭さにまみれたリビドーといったものが、SGGKの場合には希薄である。
その代わりに彼らの楽曲で一貫して描かれるのは、気弱で恋愛に対して淡泊な男性を指す、いわゆる「草食系男子」のそのさらに上をいくほどヘタレで無気力な、童貞こじらせ系男子のやるせなさ。

「草食系」にさえなれない、それどころかその草食系にすら喰われてしまう「草」のごとき存在。そんな世の男たちの姿を見事に描き出したのがSGGKの代表曲ともいえる「植物人間系男子」。

ずれこんで外れて 交差点に入る
何を待っているの
口を開けたままで

切ないくらい 味なんてしない
ガムを口にずっと

ただ、そこで立っている
徒然のままに
ただ、何かを待っている
(Super Ganbari Goal Keepers「植物人間系男子」)

けれども、その詞世界を覆う倦怠感と諦念にもかかわらず、SGGKのサウンドに触れたとき、リスナーはそこに不思議なまでの清々しさと爽やかさを感じるだろう。
それはひとえに全ての楽曲を手がけるショウヘイマンの、卓越したメロディーセンスによるところが大きい。

“練習も全力で、リハも全力で、そして本番も。
(中略)
でも、メロディがやっぱ大切。”
(SGGKのブログ「ルサンチマン・エクスプロージョン」2012-10-25)

“技術はないけど、メロディだけを信じて、ひたすら勢いだけで曲を演奏する。”
http://shinorock.tumblr.com/post/22044560335/super-ganbari-goal-keepers

こうした発言から見えてくるのは、音楽が持つ諸要素のうち、最も情緒に訴えかけ、聴く者の心を激しく揺さぶる「メロディ」に対しての、愚直なまでの信頼だ。
全ての楽曲に共通する、メロディの素晴らしさ。
これこそがSGGKの最大の強みであり、武器なのだ。

SGGKの重要なルーツの一つであろう、ザ・スミス。
彼らは五年間に及ぶ活動の中で数多くのシングル盤を発表したが、それらの多くは3分前後で終わる、かつてのポップ・ミュージックのフォーマットにのっとったものだった。
「インディー・ロック」のスピリットを体現した彼らは、同時に優れたポップ・ミュージックの作り手でもあったのだ。
“君を涙させ 君の人生を救ってくれた歌を忘れちゃいけない”
「ラバー・リング」という曲の中でそう歌ったスミス。
その楽曲の根底にあったのは、「例え、歌詞がどれほどネガティブな内容であろうとも、それが優れたメロディに乗せて歌われるならば、その歌は聴く者を勇気づけることができるはずだ」という、メロディの持つ力への絶大な信頼だったと思う(あるいはそれは「信仰」と言い換えても良いかもしれない)。
そして3分前後の尺で優れた楽曲を生み出すSGGKに、僕はザ・スミスと同じくメロディの殉教者の面影を見出して、彼らの「ルサンチマン・エクスプロージョン」を毎日毎日飽きることなく繰り返し聴き続けては、そのたび静かに興奮しているのだ。


☆Super Ganbari Goal Keepers出演イベント「きのうみたゆめ」
2013年1月6日(日) @新宿モーション
OPEN/START: 17:30/18:00 
ADV / DOOR: 2000円/2300円(+1D)
〈出演〉サンダードラゴン/月夜のドラッグ/Sir Oriental Orchestra/発明ノマミー/Super Ganbari Goal Keepers/某人間
http://motion-web.jp/

■Super Ganbari Goal Keepers公式サイト:http://flavors.me/sggkeep

キーワード:

音楽


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東澤俊秀

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