16日から東京に来ている。機内で風邪をうつされ(それ以前にかかっていた風邪をこじらせた可能性もあるが、ともかく真後ろの席の搭乗者がずっと咳をしていた)、到着早々に通例を替えて明るいうちに寝た。その結果、すでに1週間過ぎたというのに体内時計がロンドン時間から早送りされず、こんな時刻(夜中の3時半)にまだ起きていてビール飲みながらブログ書いている。
とは言え、時計が狂ったままなのは仕事をかかえているせいも大きい。チェルノブイリ本の最終原稿整理作業を2章分終えられずに帰国することになってしまったのでまずそれを片付けなければならず、ほぼ毎日作業に明け暮れ、やっと昨日の朝方、大きな山を越えた。その間、友人には一人もコンタクトしなかった。話している時間もなかったし、話しても約束を作る見通しがたたなかったからだ。われながら責任感の強さはほめてやってもいいと思う。
滞在はあと10日を切ったが、これからがつがつとコンタクトの回復に努める。なにしろ1000ポンドも払っている。元を取らねば。
そんなわけで、わたしはまだどこにも行っていないのだが、息子のほうはいままでの東京滞在とはうってかわって一人であちこち出かけていき、町歩きと買い物を楽しんでいる。去年の暮れに来てからの1年間にかれはロンドン中心部にちょくちょく一人で出かけるようになっており、時には友人をどっさり連れてピカデリーのラーメン屋でランチなどしている。また、ネットで日本の最近のアニメを見倒しており、いっぱしのオタクに育ってしまった。どこでどう子育てを間違ったかと残念に思うところもあるが、もう16歳なので親の自由にはならず、こればっかりはしょうがない。
到着の翌日、かれは探検と称して秋葉原に行き、『コードギアス』のフィギュアを4体も買ってきた。フィギュアなんて着せ替えバービーよりクリエイティビティないじゃん、とわたしはあきれ、せめてクビのすげ替えでもしたらどうかと言ったが拒否された。
かれがわたしに見せたいアニメを(ネットで)いっしょに見るとその間肩もみしてくれるので『コードギアス』も見たんですけど、いかんせん絵を受け付けず、わたしは1話で挫折した。代わりにいま肩もんでもらいつつ日に1話2話見ているのは『化物語』です。これは絵が好き、それにスクリプトがよくできている。話は他愛ないが会話のひねくれ具合がけっこう気に入った。
英語圏(だけじゃなく、フランス語圏にもイタリア語圏にもドイツ語圏にもアラビア語圏などなどにもいるらしいが)のアニメファンの熱意には恐れ入る。日本で放送されるとほんの数日で英語字幕付きがアニメサイトにアップロードされるのだ。翻訳はもちろん無料奉仕で見るのも無料。しょっちゅう削除されているけど、同じぐらいのスピードであちこちにミラーサイトが立つ。
『化物語』の英語サブタイトル付きなど何パターンもあって、アップが早いだけであまりうまくない翻訳もあれば、画面いっぱいにしょっちゅう出てくる日本語のテキスト(デザインの一部なのでストップモーションしない限りほぼ読めない)まで全部翻訳してタイポまでまねしているような凝ったものまである。日本独特の風習や日本語のしゃれについて、画面上方に注釈付けたりしているものもある。ときどきびっくりするほどうまい英訳もある。
中国は数年前から国家予算使って世界中に中華学院を作っている。外国語学部の一部だったりあるいは大学に中国語科を新設したり、イギリス中の中等学校にマンダリンの先生を送り込んだりもしている。これはすごく頭のいいやり方で、言葉を覚えてその国を知れば親近感を持つのは当然だから、戦争もしないでheart&mindをつかむことが可能になる。
バブルのころはイギリスの有名大学にいくつも日本語科があった。中等学校の選択外国語に日本語を並べているところも少なくなかった。でもいまはさっぱりだ。日本政府の予算が引き上げられてしまったので、日本語科はのきなみ中国語科に替わってしまった。残念だなあと思っていた。
その日本政府が開けた穴を、どうやら世界各地のオタクが埋めている気がする。たのまれもしないのに、ものすごい情熱とエネルギーを注ぎ込んで。この流れがどこに着地するのかわからないが注目している。
そんなわけで、イギリス生まれ、イギリス育ちの息子は、輸入品としての日本アニメを日本語で耳から、英語字幕で目から理解しつつ、ゴスロリファン(もちろん女子です)の友人に頼まれたメイド服を買いに明日も秋葉原に行くんだそうだ。こんなもん、日本にしかない。そう言うのは子どもだけゃない。日本に来た大人はみんなウォシュレットに感激し、ほめちぎる。デパートの開店時に行って居並ぶ店員に頭を下げられて感激する。
どうやらかれら(息子も含む)の目には日本はとてもエキゾチックで、無駄に電化され、無駄にオタク化し、世界のほかのどこにもないものがあるところのようだ(息子は昨日はドンキホーテで、気分にあわせて耳が動く「電動ねこみみ」というものを見てあまりにも無駄な電化に感激していた)。
つまりまあ、ガラパゴス化しているからこその希少価値なんじゃない? このさい苦手な国際化などうっちゃって、これをきわめるという手もある。