2012-08-28

女 海外ひとり旅がどれほど危険、かつ不安なものか。 このエントリーを含むはてなブックマーク 

山本美香さんの悲報の陰で、なんとなくかすんでしまった感のある、もう一人の日本人女性の海外での殺害事件。
無理もないかも知れない、連日で報道されたショッキングな事件だったし
(確か、私の記憶では山本さんのほうが1日後)、
こちらのほうはいちおう犯人がすでにつかまっているうえ、
肝心の、彼女をインターンとして海外に送り出したNPO法人アイセック・ジャパンが、
「家族の意向」を盾に、いっさいの説明も釈明もせず、いまだにだんまりを通し続けているのだから。

これらについては、ネット上では、
「アイセックに責任はない」とする意見と、「アイセックにも責任がある」という意見で大別されていたようだけど、
これについては、私は大関暁夫さんとほぼ同意見。
http://blog.goo.ne.jp/ozoz0930/e/80b50e472a688596a3e074201a21fe12

アイセックには法的責任はないけれど
(法的には追及のしようがなさそうだけれど)、
彼女の死に対しては、道義的・社会的な責任がある。
うちはあっせんしただけだから、交通手段は本人が手配するものだから、
後はなにがあっても知りません、とでもいうような今回の態度は、同義的に許されるものではない。
またそれがほんとうに、彼らが言うとおり遺族への配慮、というものであったとしても、
このような大きな事件が起こった以上は、事実関係をまず組織内で調査し、世間に向かって説明もし、改善すべき点があるのなら改善して、社会全体で再発の防止につなげていくのが組織としてのまっとうな姿勢ではないだろうか。

しかし、ルーマニアの一部メディアが、
さも知らない男についていった本人が悪い、とでも言いたげな報道(がされたと伝えられている)をしたことも手伝ってか、
この女子大生にこそ非があった、とする向きが国内にもあるようだけれども、
そういったことを安易に言う人たちは、
海外の地に一人降り立った女性に、いったいどれだけの頻度と、しつこさと、強引さと、ずる賢さで男がまとわりついてくるかを知らないのだろうか。

例をあげなければわかりにくいと思うので、
二十年以上も前の自分のトルコでのバックパッキングを引き合いに出すけれど、
一人で村に入っていったとたんに獲物を見つけたと言わんばかりに男が店から飛び出してくるし、
泊まった宿でも夜間に共同のトイレに行こうとするとハロー、ハロー、と暗闇から声がかかるし、
夕食を取ろうと外に出たら街灯もなく真っ暗だったのでこれは危ないと引き返そうとした矢先に男に出くわし、くるりと背を向けたのに強引に肩をつかまれて引き戻されそうになるし、
移動のために長距離バスに乗っても車掌が隣の席に座り込んで口説いてくるし、
観光案内所で説明してもらっても説明してくれたその人が夕食に誘ってくるし、
で、まったく心の休まる暇がなかった。

しまいには、道を聞けばそれがそのままナンパされることになってしまうので、
もう道がわからなかったら、そこの名所に行くのはあきらめるようになってしまった。

そんなのは先進国に比べれば辺鄙な国の、しかも田舎に行ったからでしょう、というのなら、
ロンドンを歩いていたって声がかかるし、売春を持ちかけられたこともあるし、
電話ボックス(があちこちにあった時代)の中にまで男が入ってきたことだってある。

また、ほぼ六年前にスリランカにひとりで行った時だって、寄ってくる男をかわすのに労力を費やした。
観光名所にはほぼ必ず男が待ち構えているわけで、
町中には詐欺と、客引きと、ナンパの混じったようなのがごろごろしているし
(ゾウのお祭りがあるから案内するとか、乗ろうとしているバスは運行してないとか、平気でうそを言ってくる)、
本来は英語のわからないふりをして無視するのが一番いいのだが、
性格的に私はいまだにそういうことができないので、
けっこうなエネルギーを使って断りまくることになる。

そんなことが、まだ二十歳そこそこの、
ツイッターの書き込みを見る限りお嬢さん育ちの女の子に、そんなに簡単にできるだろうか。
私自身、二十歳になったかならないかの頃には、
映画館や、電車の中で出遭う痴漢の効果的な撃退方法がまだわからなかった。

加えて彼女のあの無理なスケジュール。
夜間に治安の悪いルーマニアに到着し、深夜に電車で移動しなければならないような強行スケジュールを彼女が組まざるを得なかったのはなぜなのか。
ネットに残された不安にあふれたつぶやきからすると、不本意だったとしか思えない。
移動した先で現地の人と落ち合うのに、翌朝指定といったような縛りがアイセックの側からあったのではないかと憶測されてもしかたがない。

そもそも、ルーマニアなど、安全面からして旅行経験の浅い若い女性が一人で行くようなところではない。
そのような国を派遣先としてコーディネートしたのならアイセック自体にやはり責任があるだろうし、
仮に彼女自身が強くルーマニアを希望したのだとしても、適性や経験を考慮して見合わせるべきだったろうし、
それでも行くということになったのだったら、十分な注意と心構えをさせたうえで、現地でのケアを手厚くする必要があったはず。
結果を見る限り、それらすべてを怠っていたとしか思えないアイセックには、やはり相当な問題がありそうだという嫌疑がかかってもしかたがない。

ただしすべては、彼らが黙り続けているので、いつまでたってもなにひとつ明らかにならないのだが。

私の推測するには――自分の経験に照らし合わせたまったくの推測だけど――、
空港に着いてタクシーに乗ろうとしたところ、
「乗り場はそっちじゃない」とでも言われて、荷物も「持ってあげよう」と勝手にもぎ取られ、かつ、「自分も駅まで行くから」とか、「途中までいっしょだから」とか言われて、同乗を断ろうにも断り切れなかったのじゃないかと思う。
あるいは信じて同乗させたとしても、女性である以上一抹の不安はぬぐい切れなかったことだろう。
そして、無理やり車から引きずり下ろされることになったとしても、運転手が助けてくれようとしたとは思えない。トルコで私が乗り合いタクシーの運転手と、降りる時に支払いのことでもめても、乗り合わせていた現地人たちは誰一人助けてくれなかったもの。最後に運転手に険しい顔で脅されて、ぼったくられるままになった。

女が一人で旅行をするのには、すごい気力と、判断力と、経験と、場合によっては運が必要になる。

私もそのトルコを旅した当時には、
最初はさすがに危なそうだからグループツアーに留めておこうかと思ったのに、
うっかり『地球の歩き方』に乗せられて、
自由旅行ができそうだ、と思い込んで一人で行ってみて、
目当てのカッパドキアまでなんとかたどり着いたのはいいものの、
こんな砂漠のど真ん中みたいなところで一人になって、ここからどうやって脱出しよう、と本気で思ったものだった。

しかも、やってはいけないとわかっていながらも、
長い道中、ついつい油断して二度ほど男の車に乗せてもらうことになり、
その都度ぎゃあぎゃあ騒いで降ろしてもらうはめになった。
私の場合は単に無理じいしてまで行為に及ぼうとする人がいなかっただけで、
彼女の場合はたまたま最初から凶悪犯に出会ってしまったというだけの違いではないのか。

私には、あのような痛ましい亡くなり方をした彼女に、とても落ち度があったなんて責められない。
あんなに最初から不安がっていたのに、
その不安がそのまま最悪な形で現実になってしまって、
我が身に起こったことがにわかには信じられなかっただろうし、今でもどんなに無念なことだろう。
もちろん、もっとしっかりしていればこのようなことにはならなかったと言いたくなるのもわかる。
でも、しっかりしてさえいればこんなことになったはずがない、などと単純に思っている輩が男女にかかわらずいるとしたら、
それは、この世で女というものが置かれている立場を知らな過ぎると言うしかない。

このようにこの事件がいつまでも取り沙汰されるのは、
遺族に取っては身を切られるほどつらいことだというのは想像するにかたくない。
できればそっとしておいてほしいし、世間にも早く忘れてほしいと思っていることだろう。
でも、一部の人に思われているように、
思慮の浅い女の子が自ら招いた悲劇としてこのまま忘れ去られてしまうよりは、
これは女であれば誰の身にも起こりうることであるし、
彼女のせいなんかではないのをわずかでも知ってもらったほうが、
せめてものためになるのではないかと思って、遅ればせながらもこの拙文をしたためた。

冥福を祈ると言うよりも、この後彼女の魂が少しでも浄化されていきますように。

コメント(0)


Reiko.A/東 玲子

ゲストブロガー

Reiko.A/東 玲子

“human/cat also known as Nyanko A 人間/ねこ。またの名をにゃんこA”


関連日記

月別アーカイブ