2010-02-24

三島由紀夫/赤報隊 このエントリーを含むはてなブックマーク 

大和市生涯学習センターにて。

毎回、映画を観るという行為の原初的な猥雑さを教えてくれる文樹映画であるが、今回の『三島由紀夫』『赤報隊』は、はっきり言って別格だ。
「政治と暴力」という本題が設けられた二部作。すでにして大河ドラマの趣。

文樹演じる元陸軍中野学校の士官・渡辺文也が、住友銀行の嘱託社員として雇われるところから物語は始まる。じつはこの男、三島由紀夫の自衛隊市ヶ谷駐屯地乱入事件、そしてあの松川事件にも関与しており、10年におよぶ投獄生活を余儀なくされていたという人物。当初はみずからの経歴を利用されることを拒んでいた渡辺だったが、息子のように面倒をみている自衛官を助けるため、そして亡き三島への思いを果たすため、政治的陰謀に加担していく。

前半はいつもの文樹節で、腐敗した日本政治の実態や三島由紀夫の思想・人間性がえんえんと(文字どおりナレーションと冗長な台詞によって)説明され、些かうんざりさせられるが、注目すべきは役者陣の顔。住友の常務も官房長官も新聞記者も、よくぞこれだけと思えるほどのイイ面構えをしている(そんななかで華を添えるヒロイン=文也の娘役を演じているのは、「マンガ夜話」の剛腕アシスタントこと笹峯あい)。

二部の『赤報隊』では、この「イイ顔」のおやじたちの悪辣ぶりがこれでもかとばかりに描かれ、文也(文樹)のやるせない怒りが炸裂する。
柳下毅一郎さんもブログで指摘されているが、モノクローム・スタンダードの画面といい、山本薩夫監督の大作政治劇を彷佛とさせる重量感だった。

日本映画全盛期のエンタテインメント性をいまいちど甦らせ、映画の原初的な面白さを味わわせてくれる傑作として、井土紀州監督の『行旅死亡人』(昨年の僕のベスト映画)と並ぶ近年最大の収穫にちがいない。必見。

キーワード:

渡辺文樹


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佐野 亨

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佐野 亨


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