骰子の眼

cinema

東京都 世田谷区

2010-05-03 15:45


[CINEMA] 「教科書に載らない歴史の裏側を暴き出すマジメな社会派映画」─渡辺文樹『三島由紀夫』『赤報隊』クロスレビュー

政治と暴力を計3時間半に渡って描く最新作「みんな観ないで好き勝手なことを言ってるけど、それでは批判はできないよ」。
[CINEMA] 「教科書に載らない歴史の裏側を暴き出すマジメな社会派映画」─渡辺文樹『三島由紀夫』『赤報隊』クロスレビュー
烏山区民会館ホールで行われた渡辺文樹監督上映会、会場入口に設置された物販スペース

3月23日(火)烏山区民会館ホールで渡辺文樹の新作『三島由紀夫』『赤報隊』の上映会が行われた。『政治と暴力』というテーマで2部構成で描かれるこの作品は、渡辺監督自ら演じる元自衛官の生き方を通して、監督独自の視点で日本の70~80年代にうごめいた政治と経済の問題を描いている。この日は、彼のこれまでの作品『天皇伝説』『ノモンハン』『御巣鷹山』も合わせて上映された。全作品終了後、機材の搬出のさなかに、渡辺監督に話をうかがうことができた。

── 『三島由紀夫』『赤報隊』は、とてもセンセーショナルな題材を扱われている、というよりもひとりの主人公の人間ドラマとしてとても丁寧に描かれていると感じました。監督としては今作はどのような狙いを?

内容はこれでも一部なんだ。もっといろんな展開があるんだけれど、どうしても長くなってしまうんだ。1回で観られるようにしたかったし、もう少し短くすることもできるんだけれど、今回は2時間以内には収まらなかった。やっぱりまだ俺にも演出の面でいろいろ課題があるんですよ。役者のせいにはしたくないけれど、もうちょっとできる人を使いたいと思う時もあります。ただやっぱり素人だからな。俺も素人だけれど、もうちょっと意識がしっかりした人とやりたいと思うけどね。

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会場となった烏山区民会館ホールの館内

── それはいま制作において監督が抱えている課題なんですか?

経済的な問題はある程度解決すると思うけれど、役者に関しては、もともとないところから始めているんだから、ないから諦めるというわけにはいかんからね。それは、お客さんへ見せるものとしてきちんともう少しやらなければだめだと思うね。

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『政治と暴力』より

── 私は渡辺監督の上映会にはじめて参加したのですが、こんなに映画としての面白さを感じられるのかと感激しました。

みんな観ないで言ってるからね。それで好き勝手なことを言ってるから。それは批判はできないよ。

── 本日の上映に関しては、なにか妨害のようなものがあったのですか?

俺個人にはありますよ、公安がついてまわっているから。今回は神奈川のほうに宿を取ったけれど、そこからついてくるからね。そういうのを巻いて、それでもポスターを貼ったんですよ。1回世田谷で捕まって、20,000円くらい罰金を払ったんだよ、それで12時間くらおさえられて。それは3月13日の夜。

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── 自ら演じられている渡辺という元自衛官は、以前から取り上げてみたい人物像だったのですか?

そうだね、こういうのはどこでも、今でもいるからね。モデルになっている人はいますよ、実際こういう自衛官というのはいたから。殺されている自衛官もいた。右翼団体を組織したり、政治家に金をばらまいたりしたんだから。それを肉付けしていった。松川事件も詳しく描きたかったけれど、時間がなかった。地元では、もちろん米兵もいたけれど、検察も警察も事件現場にはいっぱいきて民家に待機していたんだから。だから地元じゃないとわからないところもあるんだけれどね。

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『政治と暴力』より

── これからも撮り続けていくお気持ちですか?

次回も構想しているんだ。テーマは「原発」と「天皇」ですよね。天皇は原爆を落とされることを全て知っていたんだよ。原爆は落とされるべくして落とされたというかね。それで広島と長崎の人が犠牲になったんだ。それが戦争といえば戦争だけれど、そんなことは認められないよな。

(インタビュー・文:駒井憲嗣)
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『三島由紀夫』『赤報隊』を発表した渡辺文樹監督

【関連記事】
『ノモンハン』『天皇伝説』ライブ上映興行師 渡辺文樹監督インタビュー(2008.11.26)


■渡辺文樹プロフィール

映画監督。福島県いわき市出身。学生時代から自主映画を製作、大学卒業後も家庭教師をしながら映画を製作する。1987年、『家庭教師』にて監督デビュー。 主な作品には、カンヌ国際映画祭出品、日本映画監督協会新人賞を受賞した『島国根性』(90)、松竹が出資・公開予定だったが、登場人物が実名だったため「人権侵害の疑いがある」として福島県法務局が調査に乗り出す騒ぎになり公開を拒否された『ザザンボ』(92)、各地で「金返せ」コールが起こった『罵詈雑言〈バリゾーゴン〉』(96)、天皇暗殺計画の話であったため、上映会の度に右翼の街宣車が押し掛け裁判にも発展した『腹腹時計〈ハラハラトケー〉』(99)、日本航空123便墜落事故の陰謀説(撃墜説)が題材となった『御巣鷹山』(05)、満洲国とモンゴル人民共和国の国境紛争をテーマにした『ノモンハン』(08)、天皇家の血脈について迫った『天皇伝説』(08)。


『政治と暴力』 第一部『三島由紀夫』 第二部『赤報隊』

2010年5月6日(木)
宮城県・仙台市イズミティ21小ホール[泉区役所隣 022-375-3101][地図を表示]
『腹腹時計〈ハラハラトケー〉』14:00
『天皇伝説』16:00
『三島由紀夫』18:00
『赤報隊』19:30
料金:各作品 999円(当日券のみ)

2010年5月17日(月)、18日(火)
福島県・郡山市公会堂[NHK向かい 024-934-1212][地図を表示]
17日上映『天皇伝説』19:00
18日上映『ノモンハン』19:00

2010年5月19日(水)
福島県・福島市民文化センター 4F会議室[地図を表示]
『御巣鷹山』14:00
『天皇伝説』16:00
『三島由紀夫』18:00
『赤報隊』19:30
料金:各作品大人1,200円 学生1,000円(当日券のみ)

※5/6追記:5/17~19の作品・上映時間が変更になりました。

脚本・編集・監督:渡辺文樹
キャスト:渡辺文樹、笹峰あい、唐沢民賢、森富士夫、中山治哉、橘家二三蔵、小川信行、田村三郎、今井耐介
製作:堀田澄江
照明:滝根三郎
撮影:二本松太郎
録音:堀田すみえ
助監督:福島大学旧学芸部一同
配給:“政治と暴力”製作上映実行委員会
2010年/モノクロスタンダード/『三島由紀夫』93分『赤報隊』121分

レビュー(3)


  • 大竹郁生さんのレビュー   2010-03-26 15:20

    三島由紀夫・赤報隊 を見た

    昨夜、なかなか見られないという渡辺文樹監督の標記作品を見た。90分と120分のモノクロ。 よくもまー、「3時間半も見たもんだ!」と思うが、監督の反体制の熱意と気力が惹き込む力を持っているのかナー。また監督がスライドを回す、スタートにあたりナマの...  続きを読む

  • 大勝文仁さんのレビュー   2010-04-01 11:46

    渡辺文樹の映画を見た。

     ずっと以前から気になっていたのに、なかなか東京で見る機会のなかった、渡辺文樹監督の映画を、みてきた。  僕にとって、初めて接する渡辺作品は、『政治と暴力』の第一部「三島由紀夫」第二部「赤報隊」。この二つは、ひとつながりの作品で、合計約3時間半...  続きを読む

  • ぴつ太さんのレビュー   2010-04-02 17:51

    何故に福島県はPUNKSを育むのか?~ 烏とカレーとスキヤキについての考察 ~

    『政治と暴力』 第1部:三島由紀夫 第2部:赤報隊 どちらにしようか迷ったら、どっちがロックだ?これで決めるぜ。ということで、先約をキャンセルして、渡辺文樹監督の自主上映会に参加してみた。 ちなみに、自主上映会に参加するのも初めてなら、渡...  続きを読む

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