来たる9月26日(土曜日)から10月31日(土曜日)に、eitoeikoはアレックス・ボール、高杉恵と日高進太郎による展覧会『明月記』を開催します。20世紀に生まれ、21世紀に生きる若き三名の作家が、「現代」を表現するために選んだのは、まったく古典的な表現技法でした。
物体から「意味」という表皮を剥ぎ取り、無造作に再構成していくアレックス・ボール(1985年英国ノーサンプトン生まれ。ロンドン在住)。モチーフを象徴的にあらわしながらも、その真意をあきらかに指し示すことはありません。しかし、本来の役割を拒否して、ありのままの姿をさらけ出すものたちが奏でる協奏曲が、21世紀を生きる者に与えられた寓話であり、神話となり得ることを、その画面は語ります。現代アートの中心地となったロンドンが、形而上の理論に偏った、実体のない芸術となって久しいなか、まっすぐに絵具と対話し、時間をかけて塗り重ねていくという画家本来の魂を感じさせるアーティストがまたしても英国から現れたのは、歴史の因縁でしょうか。アレックス・ボールは2007年にセントラル・セントマーティン美術大学を卒業後、昨年はカトラン・アートプライズを受賞しています。
芸術の純粋性が、美術理論から成り立つことはありません。それは歴史の中に隠れているのです。高杉恵(1976年宮崎生まれ)は、人間の存在について考え、個人と全人類の新しい調和を模索し、東西文化の融合、人間の集合体としての世界を提示します。宮崎大学教育学部を卒業後、フランス・リールを中心とした7年半におよぶ留学と滞在制作が、彼女に思想を与えています。芸術は死んだ、というパリの批評家が見落とした、総てのものに美が宿るという、美を発見する眼を、我々は忘れてはいけないのです。
日高進太郎(1984年宮崎生まれ)は現在、多摩美術大学大学院に在学し研究を続けています。混沌とした画面に無限の物語をあたえ、叛乱する想像力を銅版に写し取ることで絶妙にコントロールし、歪曲した写実的世界を創造する克明な描線には、戦慄をさえ覚えます。プレビューを兼ねアートフェアに参加したソウルでは、その細密な画面を食い入るようにみつめる方々も多く、好評をいただきました。昨年は第85回春陽展版画部門で入選を果たしています。
12世紀末から13世紀の鎌倉時代にかけて藤原定家が残した56年間にわたる日記『明月記』は、日々の記録としてではなく、その後ひろく美しい書として愛され、現在は国宝となっています。展覧会タイトルの英訳はEver Bright Moonlight。若き三匹の狼が、名月の季節に挑みます。9月26日(土曜日)の15時から17時には、ささやかなオープニングパーティーをひらきます。また、10月30日(金曜日)の十三夜には、ジャズギターの名手、岩見淳三とボーカルのYAYOIによる、デュオコンサートを開催します。ライブチャージ2000円、19時からとなっています。こちらもご期待ください。
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