(写真上)不安げに下を見下ろすのは、とてもリアルな蝋人形の少年
今秋開催される日本最大級の国際現代アート展「横浜トリエンナーレ2008」。その開催に先立ち、公式出品作品が8月1日より横浜のランドマークプラザにて展示されている。
(写真上)ショッピングモール内に現れた非日常空間に、ついつい足を止めて見入ってしまう
その作品は、マイケル・エルムグリーン&インガー・ドラッグセットの「Catch Me Shoud I Fall」(落っこちたら受けとめて)という高さ9メートルを超える大型インスタレーション作品。飛び込み台の上には、まるで生きているかのような蝋人形の少年がプールを不安げに見下ろしており、その傍を通り過ぎる人々からは「本物かと思った」「いつ飛び込むのかと思って見ていた」という驚きの声があがるほどユニーク。周りの風景とのギャップや、時間が停まっているかのような少年の出で立ち等、作品を眺めているとさまざまな面白い部分が見えてくる。
この作品を制作したのは、ベルリン在住のエルムグリーン&ドラッグセット。彼らは1995年から2人でコラボレーションをはじめ、インスタレーションや映像作品を発表し、世界のビエンナーレなど国際展やグループ展にも参加している。今回の作品は横浜トリエンナーレのためにつくられた新作で、飛び込み台の少年は日本で開催されることもあり、日本人の少年「ときお君」をモデルにつくられた。
(写真)飛び込み台の少年のモデルになった「ときお君」が、完成披露セレモニーに参加した
「わたしたちはみな平凡な日常生活を送りながら、ささやかなドラマやちょっとした驚きなど、単調なくりかえしから自分たちを連れだしてくれるわずかな変化を必要としている。文学、映画、美術はふだん思いもよらない決断を迫られるそうした珍しい瞬間を、わたしたちに思い起こさせてくれる。“落っこちたら受けとめて”は重大な決断が実行に移される寸前の、ためらいの瞬間を描きだす。実物と見まがうような9歳の少年の蝋人形が、高さ9メートルの飛び込み台の端に、今にも飛び込みそうな構えで立っている。いや、本当に飛び込もうとしているのだろうか。シナリオはそこで凍りつく。時間が停まったかのように。決して先に進みはしないものの、さまざまな成り行きを期待させるドラマ。少年は勇気と恐怖、過去と未来の狭間で宙ぶらりんのまま、いつまでも立ち尽くす。少年を主人公とするこのドラマは、多くのひとが行き来する都心の賑やかな場所で演じられる。周囲の忙しない動きのただなかに置かれた作品を見つめるうちに、後戻りのきかない決断の瞬間に特有な緊張感、美しさがわたしたちの心に蘇る。ただしここでは、決断はいつまでもくだされることはないだろう」と、2人は作品に対するコメントを寄せた。
展示は10月26日(日)まで横浜ランドマークプラザ1F ガーデンスクエアにておこなわれている。また、同所3Fのイベントスペースには2001年からはじまった横浜トリエンナーレのポスターや、今回のエルムグリーン&ドラッグセットの資料が展示してあり、9月13日からはじまるトリエンナーレへの盛り上がりが徐々に高まっている。
(写真)完成披露セレモニーでは、水沢勉総合ディレクター、横浜市副市長、駐日ノルウェー王国大使、ときお君などがテープカットをおこなった
(取材・文:牧智美)
■エルムグリーン&ドラッグセットPROFILE
マイケル・エルムグリーン:1961年コペンハーゲン(デンマーク)生まれ。現在ベルリンに在住。
インガー・ドラッグセット:1969年トロンハイム(ノルウェイ)に生まれ。現在ベルリンに在住。
98年ベルリン・ビエンナーレ、01年イスタンブール・ビエンナーレ、02年サンパウロ・ビエンナーレ、03年ヴェネチア・ビエンナーレ、06年光州ビエンナーレ、07年ミュンスター彫刻プロジェクト参加。欧米の各美術館でグループ展、個展開催。08年ベルリンのポツダム広場にナチスによって虐殺された同性愛者の追悼碑を完成。日本では2000年越後妻有アートトリエンナーレ、03年森美術館「ハピネス」出品。
『横浜トリエンナーレ2008』
会期:2008年9月13日(土)~11月30日(日)
開場時間:10:00~18:00(入場は17:00まで)
会場:新港ピア、日本郵船海岸通倉庫 (BankART Studio NYK)、横浜赤レンガ倉庫1号館、三溪園、大さん橋国際客船ターミナル、ランドマークプラザ、運河パーク、他
主催:国際交流基金、横浜市、NHK、朝日新聞社、横浜トリエンナーレ組織委員会
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