歌うパティ・スミスを私は知らない。
「彼女の世代では」と一括りにするなら、
ジャニス・ジョップリンの Pearl が私にとっては全てで、
友人と出かけたフリーマーケットで、
これ、すごくいいよ、と言われるがままに持ち帰り、
ココロかっさらわれたことを昨日のように思い出す。
ジャニスは30にならずにこの世を去ってしまったが、
パティ・スミスは、幾度となく「喪失」を経験しながらも、
「彼女」であり続け、年を重ねてきたように映る。
それが表現者として、いかに奇跡的なことか、と驚嘆するとともに、
「パンクの女王」などという言葉と裏腹に、
今も昔もはかなく鈴の音のような語り口、自然な佇まいに、
ぼんやりひかれていた。
…そんなうっすらとしたパティの輪郭しか持たない自分にとって、
本作「パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ」は、眩いばかりだった。
それもこれも、何よりフィルムを11年に渡ってまわし続けた監督、
スティーブン・セブリングのおかげだ。
パフォーマンスに感動し、「人として、パティ・スミスを知ることに興味をもった」という言葉に偽りなく、彼が自分の観念に縛られることなく、また彼女への想いを一方的に押しつけることなく、目の前のパティ・スミスをあるがままに捉え続け、彼女からふと湧きあがる、あるいはこぼれおちる瞬間を、受け止め続けてきたという、その感性にもただただ沁みわたるように驚かされる。
彼の真摯さは編集においてもあますことなく発揮される。
11年もフィルムをまわしながら、詩的で余韻ある編集の強靭さ。
何が大切であるか、彼にぶれは微塵もない。
フィルムに散りばめられたパティの言葉の数々。
…ポロックは嫌いだけれど、
パティ・スミスがフィルムの中で語るポロックは、
かけがえなく瞬き、響く。
彼女は宣言する、
My mission is to communicate, is to wake people up, is to give them my energy and accept theirs.
交わしあう喜び。
さざ波のように、伝わってくるもの、
そして蝋燭の芯にそっと火を灯すように沸き上がり、
いつしか陽だまりのなかにいるようでいて押し出されていくような感覚に、
全身がゆっくりと解き放たれるように、ココロほどけていく。
時間は過ぎ行き、多くの人と出会い別れ行くけれど、
波音のように風のように、そっと残っていくものがある。
*
スクリーンを後に、外の空気を全身に感じる。
交差点で信号待ちをしていると、
道の向こう側で、携帯のカメラを何度も掲げている人がいる。
その視線の先を追うと、
そこには、手を思わず伸ばしてしまうような、
迫りくる圧倒的な存在感を放つ、素晴らしく幻想的な月。
信号を渡ると、映画に背中を押されるように声をかけた。
「何とも綺麗な月ですね、おかげでこの月を眺めることができました」
突然かけられた声にびっくりするどころか、
その人もまた、美しいものを前にした興奮を分かち合えることを
喜んでくれたようだった。
そんな、七夕の夜に。
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●patti smith dream of life
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●Steven Sebring
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photo:
Patti Smith Dream of Life
A film by Steven Sebring