『3.11 A Sense of Home Films』より、ビクトル・エリセ『“Ana,three minutes”“アナ、3分”』
東日本大震災を受け21人の映画作家が3分11秒の短編を持ち寄り完成した『3.11 A Sense of Home Films』が1月14日より渋谷アップリンクにて上映される。
この作品は3月11日の震災後、なら国際映画祭エグゼクティブ・ディレクターの河瀨直美監督が、世界の映画監督に呼びかけて実現したもの。
河瀨監督のほかアピチャッポン・ウィーラセタクン、ジャ・ジャンクー、ジョナス・メカス、想田和弘、ウィスット・ポンニミット、ビクトル・エリセ、『パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ』のスティーブン・セブリングといった映画監督、アーティストたちがそれぞれ「A Sense of Home(“家”という感覚)」をテーマに作品を提供している。
『3.11 A Sense of Home Films』はこれまでいくつかの映画祭などで上映されてきたものの、劇場でのロードショー上映は今回が初となる。
上映作品
アリエル・ロッター『FUTURE HOUSE』
6人の子供達、ある週末。
ブエノスアイレスの郊外にたたずむ家。
出演:ハズミン・メレナ、アブリィル・デ・ウガリッツァ、フロレンシア・メレナ、ティアゴ・タンマロ、ラウタロ・メレナ、フェデリコ・サラディノ、ブライアン・ルービン、アレハンドロ・メレナ、ウーマ&アロン(犬)
監督:アリエル・ロッター
撮影監督:グスタボ・ラスキエ
美術監督:アイリ・チェン
編集:マリア・アストラウスカス
制作:Airecine社
イサキ・ラクエスタ『DESPEDIDA (FAREWELL) -告別』
父は私の祖父の最期の言葉を覚えている。
父の語りを聞きながら、私の家族代々の男たちを追う。
語り:Jose Ignacio Lacuesta
出演:Unai Lacuesta, Aitor Lacuesta, Jose Ignacio Lacuesta, Isaki Lacuesta.
音楽:“Hiru errege maila” (Mursego)
監督:イサキ・ラクエスタ(スペイン)
アピチャッポン・ウィーラセタクン『MONSOON』
一人の男が地球の反対側とスカイプしている。
ホタルを見つけた彼は、それをパートナーに見せる。
監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン(タイ)
出演:Peerapong Chalermyothin,Chaisiri Jiwarangsan
音楽:Peerapong Chalermyothin
編集・原案:アピチャッポン・ウィーラセタクン
音響:アクリットチャラァーム・カラヤナミット
制作:Kick the Machine Films
ジャ・ジャンクー『Alone Together』
妻は橋を渡り、湖を超えて夫に会いに行く。
夫は湖の側にあるあずまやでマッサージ師として生活費を稼いでいる。
息子は学校が終わって家に帰ると、一人で窓際に座って外を眺める。
湖の景色は煙霧でぼんやりとしている。遠くにある工場の煙突やパイプはかすかに見えるだけだ。
工場の近くに住んでいる家族達はみんな何か気になっていることがある。父親は息子の目にかかっている砂を吹き飛ばそうとする。息子は母親の腕を揺るがす。妻は傷を負った夫の背中に燃えるようにしみるお酒を塗りつける。
キャスト:Zhao Tao, Liang Jingdong, Hou Shaokun
プロデューサー:Jia Zhang-Ke
監督・脚本・編集:ジャ・ジャンクー(中国)
撮影監督:Yu Likwai
照明:Wong Chi Ming
作曲:Lim Giong
サウンドデザイナー:Zhang Yang
カトリーヌ・カドウ『LA DUNETTE』
アッパーデッキ/船尾楼
私たちはそれを船尾楼/アッパーデッキと呼ぶ。それは屋根裏で、私たちの宝物、愛する本や芸術家である友人達の作品等は全てそこにあって私たちを見守りひらめきを与えてくれる。歴史を持たないものはそこにはなく、空に面したいくつもの窓から街の喧騒を感じる事ができる。そこにあるのは、過去を彩る光に包まれた新たな世界。
原案・カメラ・撮影:カトリーヌ・カドウ
編集:Robert WEISS
音楽:Michel PETRUCCIANI
制作:Christian SAUTTER
協力:Roseline GRANET, KAWASE Naomi, VISWANADHAN, Zuka MITELBERG
桃井かおり『余心』
部屋で一人、ビデオメッセージを撮っていた女を
激しい揺れが襲った。
突然の日常の分断。
時間差で、TVから現実が報道され始める数秒間に、
女はたまらなく恋しい人に気づく。
監督・撮影・主演・編集・特殊効果:桃井かおり(日本)
百々俊二『ひげ』
私、64才の居間、モモ(犬)がいる。
私の本家の写真(1931年撮影)、
祖父を中心とした家と家族写真。
父の兵隊の写真(2.26事件前日に撮影)
1981年。
私(34才)と次男(4才)、ひげそりのVTR。(ソニーBeta)
ポラロイドで撮影した祖父家族写真(ポジ)が水に沈む。
ポラロイドのネガフィルムと太陽。
次男34才(2011.6.4)の結婚。
披露宴のシーンからその妻の妊娠した腹。
自宅庭とモモ。
監督:百々俊二(日本)
ジョナス・メカス
私はモン・ヴァントゥ付近のプロヴァンスにいる。詩人のペトラルカが聖アウグスティヌスの書いた“告白”を持ってモン・ヴァントゥを歩いていたことを思い出す。手で書き写されたものを読みながら。モン・ヴァントゥにて。
監督:ジョナス・メカス(リトアニア)
想田和弘『HOME』
舞台は想田和弘の故郷、栃木県足利市。
“HOME”とは何かという問いかけに応えて撮られた、
言葉のない映像詩。
監督・製作・撮影・編集:想田和弘
チャオ・イェ
2011年のある日、わたしは家にむかう電車の中で街の明かりが消えていくのを窓から眺めていた。2006年のある日、年老いた犬は寝ている。そしてお母さんはバルコニーで洗濯の準備をしている。でも、洗剤ボトルのキャップが閉まらない。そこで、わたしに微笑みかける。そして彼女は部屋へ戻り、洗濯を始める。平凡で、自然で、まるで何も起こっていないようにも見えるが、わたしの心の底で暖みを感じる。
監督:チャオ・イェ(中国)
西中拓史『Yayoi-March-』
散らかった室内を片付けながら、弥生は携帯電話を操作している。
けれど、電話は繋がらない。
そんな時、テレビから流れた映像を見て、弥生は驚愕し走りだす。
出演:伊藤菜月子、松谷江美 他
撮影・照明:竹岡昌彦
録音:解良和徳
制作:丹波慶一郎
編集:牧野裕也
整音:西澤佑里恵
監督・脚本:西中拓史(日本)
ウィスット・ポンニミット『Watering』
いつも家の庭と仲良く頼り合って暮らしている男の人。
ある日、家から離れないといけないことになった。
庭の面倒をみる人がいなくて心配になった男の人は、
家の外の広い空から「メッセージ」をもらって安心させてもらう。
監督:ウィスット・ポンニミット[タム君](タイ)
レスリー・キー『HOPE OF LIGHT 希望の灯り』
日本が3月11日の地震に襲われたその夕方、私は日本全体が奈落と絶望に支配されたのを見ました。恐れ、混乱、不安と悲しみに覆われた日々は続き、あらゆるTVやメディアから伝えられる悲観的なニュースを見ながら私は無力感に襲われていたように思います。
私はあの時に感じた、そして今でも現実と直面して言葉を無くしてしまうこの感覚を、一生忘れないでしょう。けれど、私たちが生まれそしていつかは去っていくという事以外は、人生はいつも予測し得ないものなのです。故に、私はこの短編の中にシンプルなメッセージを込めました。闇がやってきた時、私たちは強くあり決して信じる事をやめてはいけない。私たちが人生の素晴らしさを示し、それを強く信じていれば、やがて希望の光は灯るのだ、という事を。
監督:レスリー・キー(シンガポール)
ポン・ジュノ『Iki』
大きな波が打ち寄せるビーチ。彼女は、そこを彷徨うように歩いていた。
波打ち際に横たわる少女を見つけるが、息絶えているのか、生きているのか。
監督:ポン・ジュノ(韓国)
プロデューサー:Neung-yeon Joh, Lewis Taewan Kim
撮影監督:Kyung-pyo Hong
ソー・ヨン・キム
ベルリンで生活していた今年、私たちは新しい家族の一員を授かった。3.11 A Sense of Homeの為の作品の中に、私はこの新たな我が家の空気をとらえようと試みた。
作品:ソー・ヨン・キム(韓国・アメリカ)
ピアノ音楽:ブラッドリー・ラスト・グレイ、スカイ・グレイ
山﨑都世子『むすび』
日本最大の日雇い労働者の町、大阪・西成区(通称:釜ヶ崎)。
故郷や家族、これまでの人間関係を断ち切って釜ヶ崎に来た人々も多い。
その町の片隅に平均年齢77歳のグループ『紙芝居劇むすび』がある。
メンバーのほとんどが単身高齢者で、生活保護を受けながら三畳一間でひとり暮らしをしている。
おっちゃんたちは紙芝居を通じて色んな人と出会い、つながり、寄り添い、心をむすんできた。
監督・撮影:山﨑都世子(日本)
音楽:梅本麻由子(播州城山流篠笛)
スチール:江里口暁子
編集:山﨑都世子、三丸聡
製作:Okoku
特別協力: 紙芝居劇むすび
モハメド・ナジブ・ラザク
今ここにいる幼い息子。 幼い頃、かつてここにいた自分。 息子が今見ている家。 自分の子供時代の、色褪せた思い出の中の家。
プロデュース・監督:モハメド・ナジブ・ラザク(マレーシア)
Camera & Sound by Mohd Naguib Razak
Associate Producers Miyuki Murayama & Taisuke Motoyoshi
Assistant Director Taisuke Motoyoshi
Music Masamichi Shigeno
Mixing & Grading Harun Rahman
Additional Equipment Jon Ramlan
Special thanks to Puan Aishah Dolmat, Puan Kamariah Awang and family, Naomi Kawase, and little Arif f Ryo Ilhan Mohd Naguib.
Specially made for ‘3.11 A Sense of Home Films’.
ペドロ・ゴンサレス・ルビオ『A Moment on Earth』
ある夏の朝、女は寝ている。男は彼女が呼吸している姿を見ている。この世界で感じられる一瞬の平和。全てはそこから始まったのであり、そこに存続するのである。
ナレーション:ペドロ・ゴンサレス・ルビオ
女:マガリ・ロイト
脚本・撮影・編集・監督・製作:ペドロ・ゴンザレス・ルビオ(メキシコ)
サウンドデザイン:セルジオ・ディアス
パティ・スミス『ピープル・ハブ・ザ・パワー』
パティは、ささやく。
人々には、力があるのだと。
夢を見る力が。
詞:パティ・スミス
ボーカル:パティ・スミス
監督・撮影:スティーブン・セブリング(アメリカ)
日本語版字幕:加瀬亮
プロデューサー:石毛栄典
制作協力:安藤純子、金林剛
ビクトル・エリセ『“Ana,three minutes”“アナ、3分”』
2011年8月6日。芝居が始まる前、舞台裏の控え室にいる女優。衣装とメイクは古典劇登場人物風。そこにアナウンスがかかる、“アナ、3分”と。それは彼女が舞台に立つまでに残された時間。女優は座ってノートパソコンの画面を見つめる。そしてかかってきたビデオチャットに答え、まるでモノローグを始めたように話し続ける。3月11日に日本を襲った大地震について語り始め、その後に押し寄せてきた津波のこと、そしてそれらがどのような結果を招いたか。
出演:アナ・トレント
製作・脚本・監督:ビクトル・エリセ(スペイン)
製作総指揮:セザール・ ロメロ
撮影監督:バレンティン・アルバレス
編集:フアン・ペドロ・ディエス
河瀨直美『HOME』
少女はその瞬間を生きている。生かされている。風の音、光。それらは記憶、もしくは記録。母は、老いてその命を終えようとしているのか・・子は育まれ、歳を重ね、無常にも過ぎ去る刻。変わらぬ「家」という空間の中で「光」と出会うひと、びと。その歓喜。
撮影・監督:河瀨直美(日本)
出演:うの、みつき、うみ
協力:森亮太(編集)、伊藤裕規(音響)、北條美穂(助手)
特別協力:有限会社 レトロエンタープライズ
『3.11 A Sense of Home Films』
2012年1月14日(土)~1月27日(金)連日13:00
会場:渋谷アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F TEL 03-6825-5502)[地図を表示]
主催:NPO法人 なら国際映画祭実行委員会
協力:有限会社組画Kumie Inc,.
特別協力:ルチアーノ・バリソネ、ローレンス・カーディッシュ、クリスチャン・ジャンヌ、
カトリーヌ・カドウ、辰野勇、藤沢久美
翻訳協力:星川果月、木内香月
嶋田法子、上田真弓