ダンスシーンが気になってなんとなく見たいと思っていたリメイク版『サスペリア』を、
この間ようやく見てきたんだが
ホラーとしてはおもしろかったものの、
それ以外の要素についてはあまりまじめに受け取らなくてもいいかな、という気が。
というのは、
ドイツ赤軍派とのからみがなんかとってつけたようで、
自分自身はドイツがわけもなく好きだから、
舞台がドイツだったり、ドイツ語が出てくるだけでうれしいんだけれど、
それでも、舞踊団のダンサーの一人が過激派の一味だったり、
舞踊団の運営者たち(=魔女集団)の崩壊が、
赤軍派の敗北と併行して進むかのような演出は、
本来、超越的な能力を持っているはずの魔女集団を、
人間社会に近づけ過ぎてかえって小さなものに見せてしまった観がある。
あと、ニナ・ハーゲンの曲が寮内で流れているシーンがあったけど、
あの曲は77年にもう出回っていたのかな、ということもちょっと気になった。
それよりなにより一番引っかかったのは、
ダンスが精神をも肉体をも変容させるという、
このホラーストーリーを成立させるために肝心な部分だけれど、
ダンスしたら、獣とファックしてるように感じた、とヒロインのスージーに語らせたところがなんともお粗末というか。
人間性に対する獣性、あるいは聖性に対する魔性、という二元論的観念を出ていない感じ。
踊る側である私から言わせてもらえば、
ダンスでエクスタシーを感じるとしたら、
それは異性であろうと獣であろうと、相手は必要ない。
セックスしなくても一人でエクスタシーを感じることができる、というのが、
ダンスのもたらすオカルティックな作用なんだから。
それはおそらく上との通路ができるからで、
そうでなければ、そもそもマダム・ブランが言うような「高みを目指す」ということは到底できやしない。
と散々ケチをつけまくったけど、
最初から書いているようにまったくつまらなかったわけではなく、
ホラー作品としては見応えのあるシーンが多々あっておもしろかった。
役者はみんな熱演で、マダム・ブランを演じたティルダ・スウィントンは言わずもがな
(しかし、クレンペラー医師を演じたのもスウィントンだとはまったく気づかなかった!)、
オルガを演じたエレナ・フォキナなど、
自分をきれいに見せようなんて気はみじんもなく、
文字通りぐしゃぐしゃになるまで体当たりで演じてくれて、
そのシーンがあまりにもすさまじく、息をのまずにはいられなかった。
それから、ダンスシーンは公演を装った半裸の女性たちの群舞も、魔女たちの全裸の秘密の儀式も迫力があって、
それがやはりなによりもの見どころ。
主要な登場人物として、かなり年輩の女性たちが大手をふって出てくるところもいい。
確かにこの映画はフェミニズムには一役買っているかもしれない。
だけど残念なことに、
母たる存在は、この作品を見てもわかるようにやはりどこまでいっても独善的なものだ。
よって、私はこれを偉大なる母(魔女サスピリオルム)による救済物語ではなく、
単なる「魔女復活」という枠組みで読んだが。
だからやっぱり、ホラーとしておもしろかった。