「全感覚派」というものをなんとなく思いついてから1年近くになる。
「全感覚派」とはなにか?それはこのブログ http://zenkankaku.cocolog-nifty.com/blog/ にあるのだけど、ここにはこれを思ったときの個人的な気持ちは当然ながら書かれてはいない。なので、ここでは少し個人的な気持ちを吐露してみようかと思う。
「appel」という(自分が泉沢さんと一緒に作った)ギャラリーは2006年に閉じたが、5年近くのその活動において、近しいと思えたのは代々木の「OFF SITE」くらいだった。OFF SITEのしばらく後にオープンしたが、考えてたことはそんなに伊東くんと遠くなかったと思う。わからないけど。ただ、先行したOFF SITEと同じスペースにはしたくなかった(いずれ違う人間がやるのだから違うだろうとは思ったが)。
appelは「声」の横溢する場(スペース)を目指した。文字通り、J.デリダの言葉に導かれたが、その方向を示してくれたのは東浩紀の著作だった。当時はわけもわからずやり出したのだが、そこで目指していた「美術」は、やはりいわゆる「美術」の定義とはずれてたと思う。
「美術」は自分にとっては出会いと発見、そして内省と思考を導く存在だった。だから、小学校時のデ・キリコやラウシェンバーグとの出会いは衝撃だったし、現実が再構成される場としての表象に惹かれたのかもしれない。やがて「もの派」を通過し、荒川修作との出会いはそうした「美術」観の構築に大きく作用するわけだけど、その背景にプロテスタンティズムが横たわってることは否定しない。
とにかくも私にとって「美術」はそのようなものであり、しかしもちろん多くの影響力や制作機会を得たいという思いは既存の方法(企画ギャラリーでの成功など)への関心に向かわせたのだけど、しかし(失敗や負け惜しみとも違って)、そうした方向に邁進したいという推力を欠いてた理由は、おそらく先の理由は大きいのではないかと思う。
そうした出会いと思考の軌跡としての「美術」の場として、もっとも親しんだ場所は「ギャラリー伝」だった。経堂のそこは奇しくも後にappelを開かせてもらう契機となり、今も場所を変えて東北沢の「現代HEIGHTS」にある。そして、「第1.5回全感覚派美術展」はそこで開かれることになった。
そこになんらかの符牒を見いだしたいというわけではない。しかしそのようにして「美術」は存在し、継続されるのだということを、どのように人に伝えることが可能だろうかとは、よく考える。もちろん当たり前だが、別に自分の歩みを「美術」などと大それたことを言いたいわけではない。そうしたパーソナルな宇宙(スペース)が内面化され、やがて大文字の「美術」と結びつくこと。それこそが「美術」なのではないかと考えてるのかもしれない。
「appel」はしばしばオルタナティブなギャラリーだと言われた(オルタナティブはなんであるかは置いといて)が、そこにあった「音響的即興」との、或いは「文藝」とのひとときの親和性はなんだったのか。境界侵犯を当初から目論んだわけではなく、結果としてそれはそうなったとしか言いようがなく、だからこそ、自分の成果でもなくある種の導きがそこにはあったのだと思うのだ。
場所を失い、しかしappelでのアンデパンダン形式(戦後アンデパンダン)を引き継いだ「オルタナ美術部」の失敗(もしくは成果)を経て、なぜいま「全感覚派」なのか?と訊かれたら、以上のような話になるのだと思う。そこに答えはないが、なにかしらの空気のようなものを読み取ってもらえたら嬉しい。
■第一回全感覚派美術展 現代HEIGHTSで追加開催!!
● 9/16 第1回全感覚派音楽会 並行開催!
表現内容:絵画、写真、インスタレーションなど
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開催概要
第1.5 回 全感覚派美術展
出展作家: あんまり、小田寛一郎、高橋辰夫、タニダリョーコ
はしのかげ、平間貴大、平丸陽子、吉田和貴
2011年9 月15日(木)~27日(火)
15:00-22:00 *土・日は13:00- 9/16(金)、23(金)、27(火)は18:00まで
会場: 現代HEIGHTS Gallery DEN & .ST
〒155-0031 東京都世田谷区北沢1-45-36 TEL/FAX : 03-3469-1659
会場URL: http://gendaiheights.sakura.ne.jp/
●「第一回全感覚派音楽会」
現代HEIGHTS(東北沢)
2011.9/16(金)
秋山徹次・小田寛一郎・人数(平間貴大&直嶋岳史)・元箱根(Taxxaka+安永哲郎)
19:00 open 19:15 start ¥1500+要ドリンクオーダー
秋山徹次 Tetuzi Akiyama …ギターという楽器の持つ特質に、自身の欲求をミニマルかつストレートな形で加えていくことによる、原始的で即物的な意味合いを含んだ演奏を得意と
する。ミクロからマクロに至る音量を、繊細に、ときには大胆にコントロールし、身体の電子化を試る。
小田寛一郎 Kanichiro Oda …1980年佐賀県生まれ。家業の陶磁器流通・販売業の傍ら、音楽とアートに関わる雑多な活動をしています。趣味は考えごとと読書と音楽鑑賞です。
人数 Ninzu…平間貴大と直嶋岳史のデュオ・プロジェクト。ある行為に、時間経過を伴うルールを持ち込み、行為と場所の関係性、その受け取られ方の変化を見つめる。
元箱根 Moto-Hakone …既に在った出来事と、現在立ち現れている出来事を区別することなく、思い起こしては忘却する表象を、映像と音でトレースする。かつてappelを運営した美
術家Taxxakaと「minamo」「HELLL」「VOIMA」などのグループで多様な音楽活動を展開する安永哲郎によるユニット。