病の末に働けずその人は
だれにも気づかれることなく息がとまった。
玄関もトイレもなにも共同の部屋 うっすら扉が開いたまま。
誰もがぎりぎりのこの生き場所では
何日も気にかける人はなかったというのか。
まくらの下にしまわれた五千円札 大事な人からもらったもの 。
そして つつましく住んだ下町の小さな部屋には
今日もさび色の西日がさす。
まだ日本がめざましく経済発展していたころ
田舎からでてきた電気工が、職場からそう遠くなく家賃の安いこの町に
住むのが都合よかっただけ。
下町には情緒と人情があるというとき
そのかげに人知れない「やむを得ず貧しい悲しみ」を
だれが知るだろう。