骰子の眼

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埼玉県 その他

2009-11-11 18:20


現代日本の〈人間関係のない貧困〉を捉えた映画『ワカラナイ』を高校生たちはどう観たのか

『ワカラナイ』上映会+「お金がないと学校に行けないの?」首都圏高校生集会実行委員会ディスカッションが開催。
現代日本の〈人間関係のない貧困〉を捉えた映画『ワカラナイ』を高校生たちはどう観たのか
映画『ワカラナイ』より (C)MONKEY TOWN PRODUCTION

現在、深刻な不況の影響下、経済的な事情で満足に教育を受けることができない子供たちが増加している。そのような状況下、2009年11月1日(日)に、首都圏の定時制高校の生徒たちが中心となった「お金がないと学校に行けないの?」首都圏高校生集会実行委員会によるイベントが行われた。当日は定時制高校を守るための署名活動の後、深刻な貧困の中で生きていく少年の姿をリアルに描いた映画『ワカラナイ』を上映。自身や仲間が困難な状況にある13名の高校生たちによるディスカッションが行われた。

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JR吉川駅前では署名活動が行われた

──『ワカラナイ』を観てどうでしたか?

「胃が痛いです(笑)」

「最後のほうは感動しました」

「お母さんが辛いとか死にたいとか言っていたけれど、俺だって辛いんだよとか、何で俺ばっかりこんな辛い目に遭わなくちゃいけないんだよとか普通は思うと思うんだけど、どうにかしようとがんばっているのは、やっぱりお母さんを嫌ってなかったからだと思う。なんでこんな家庭に生まれたんだろうとか、こんなところで生まれたくなかったという思いもあるはずなのに、主人公はすべてをがんばって必死だったから、強いなと思った」

「主人公が弱音をはかなかったのは、やっぱり頼れる人がいなかったからというのもあるし、信じられる人がいなかったから。いつ自分たちがこうなるか解らない。もしかしたら私たちがこういう環境になっていたかもしれない、それとも明日そうなるかもしれない。お金のことばかり社会に問い詰められてしまうようになってしまう。そういういたしかたない現状があるけれど、ホームレスなどに偏見のあるいまの世の中と日本のなかで、貧困やお金のない若者たちがどういう思いで、どういう状況でそのようになってしまうのかが描かれている。そのような偏見が取り除けるかもしれない映画だと思いました」

「僕の母親は病気で、兄2人で支えてるのですが、主人公と重なる部分もあるかもしれないけれど、不思議とそうでもなかった。どんな状況でも、僕の母親はそういう悪いことに手を染めることを激しく嫌っていたので。でも考えさせられるところはありました」

「主人公はレジ操作で犯罪をしているけれど、親が病気で寝たきりで働いて、それで食いつなぐのがやっとみたいな状況で。それが発覚して友達のクラスメイトを突き放たりっていうシーンがあったけれど、もっと冷静に自分も対応したり、もっと周りの人が助けることも必要だと思うし。でも、どうしていいのかが解らないというのがいちばん大きなことだと思う」

──最後もお父さんに頼らないで、そこから離れていくでしょ、みんなだったらどうする?お父さん世話してよ、っていうふうにならない?

「でもお父さんとしては、今は平和な家庭を持っているわけだし、今頼ったらその家庭を壊してしまいそうだから、今は自分は頼らない方がいいと思ったんじゃないかな。その後ひとりでとぼとぼ歩いていったのは、とりあえず自分でなんとかしようということだと思う」

──どうしたらもうちょっといい状況になると思いますか?

「題名がワカラナイだし、どうしたらいいか解らない、主人公にも解らないだろうし、見ている僕にも解らないところが多い」

先生「おまわりさんが「君はサッカー選手を目指していて、夢があるじゃないか」という言葉にものすごいギャップを感じた。サッカーなんかできる状況じゃないじゃないですか。お金がないとき、食べるものがないときは、ほんとうにプライドを捨てるしかない。僕だったらお母さんの手を握り返さないで、結婚指輪を持っていってしまうと思う。そんなときに、おまわりさんが「娘の誕生日なんで」と出ていってしまう。周りの同級生にしろ先生にしろ、繋がりがなさすぎる。食べることもできない生活で、がんばってくださいって何をがんばったったらいいのか」

「でも、指輪を握り返したのは、そのままお母さんに天国に持ち帰ってもらいたかったからじゃないの?」

先生「それは解るけれど、死ぬほど腹が減っているときに、プライドを捨てることがどれだけ辛いか。自殺するしかないんじゃないか、そういう状況の時に、俺は指輪を握り返せるのかなって思った。ゆりかごから墓場までという社会じゃないってことだよね。母親が死んでも誰も助けてくれない。そんな世の中でいいのかって観ていてほんと頭にきた。そういう意味では、人間関係のない貧困がほんとうによく描かれている映画だと思った」

──あの後、あの少年はどういう生き方をするだろう?施設送りになってしまうんだろうけれど、そこから出て、強く生きるのか、逆に犯罪に手を染めていくのか。みんなが主人公の立場になったとき、あの映画以降、どう生きる?

「そのまま母親についていってしまいます。その時点で私の人生は終わってしまっているから」

──それからおうちで宿題みたいなのをやってるじゃない。そこで学校に行ってるんだということは解るけれど、先生が一度も出てこないですよね。あんな状況のときに、勉強なんかするのかな?

「あれは自主勉だと思う」

「私たちの周りにはみんな、学びたいけど学べない人もいるし」

──今の社会で自己責任ということが言われますけれど、なんでも自分でやれ、父親がいなくなっても自分で生きていけっていうことですかね。

先生「どうしたらいいかもわからない、でも生きていかなければいけないからね」

「ひとりじゃ生きていけないですけれど、もしひとりになってしまったらあまりなにも感じなくなるんじゃないかな」

──主人公は作品中2回ぐらいしか助けを求めないんだけれど、みんなだったらどうする?

「先生に助けをもとめちゃう(笑)」

「もしかしたらこういう(首都圏高校生集会のような活動をしている)バカ正直な先生がいるかもしれないじゃん」

[構成・文:駒井憲嗣]
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映画『ワカラナイ』より (C)MONKEY TOWN PRODUCTION

【関連リンク】
小林政広監督 webDICEインタビュー「観た人を揺さぶりたい」(2009.9.30)

「痩せた風貌、鋭い眼光、物憂げな表情…悲しいくらい亮に成りきっていた小林優斗君に拍手!」─『ワカラナイ』クロスレビュー(2009.11.11)




映画『ワカラナイ』

11月14日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、11月28日(土)より新宿バルト9にてロードショー
監督・脚本:小林政広
プロデューサー:小林政広
製作:モンキータウンプロダクション
出演:小林優斗 柄本時生 田中隆三 渡辺真起子 江口千夏 宮田早苗 角替和枝 清田正浩 小澤征悦 小林政広 横山めぐみ ベンガル
配給:ティジョイ
宣伝:アップリンク
2008年/日本/104分
公式サイト


「お金がないと学校に行けないの?」首都圏高校生集会

深刻な不況で授業料が払えない家庭が増えている問題に対し、首都圏の定時制高校の生徒らを中心に授業料の無償化などを訴えている。今年の7月19日には、「奨学金がほしい」「学費無償化は世界の常識」などと書かれたプラカードを手に渋谷の街でパレードをした。7月26日には、三郷市でシンポジウムを行い「多くの国で高校の授業料が無料なのになぜ日本は違うのか」「定時制高校では給食が命綱になっている生徒もいる」と自分や仲間の苦しい実情を訴えた。また、友達を通じて高校生約2,200人を超えるアンケートを集めた結果、4人に1人が「学費で親に負担をかけて申し訳ない」と考えていることが分かった。

【子ども・若者の貧困について詳しい書籍】

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『子どもの貧困白書』
子どもの貧困白書編集委員会 編
出版:明石書店
現代日本の子どもの貧困の実態をデータと事例で明らかにする初めての白書。 病院・保育園・学校・乳児院・児童相談所・福祉事務所・母子生活支援施設等 子どもを援助する広いネットワークから生まれた本。子どもに関わる人・子育て 政策を担う行政担当者必携。







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『若者と貧困』―いま、ここからの希望を―若者の希望と社会3

編著:湯浅誠 冨樫匡孝 上間陽子 仁平典宏
出版:明石書店
派遣切り・奨学金返済問題・ハウジングプアの現場からの真摯なレポートや、貧困研究・教育学・若者論など荒削りだが刺激的な論考が議論の交差を生み出す。ホームレスを経験した若者自身によるライフストーリーは圧巻。貧困の現場から希望を見出そうとする書。


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