2016-03-28

「VOCA展」レポート4 このエントリーを含むはてなブックマーク 

 はじめにひとこと、ふたこと、みことほど。

 「作品買って!このトラウマを救ってくれるのは、もはや金しかない!連絡待ってます!」
 
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 今回はもうレポートというよりは、前回で触れなかったもうひとつの作品について解説を書きたいと思う。ここで詳細に説明するのは野暮でいささか下品ではあるが、会場で行われるはずだった、作品と作家資料と物販の相互関係によって作品の意図を示唆するということがかなわなかったから書かせてもらう。
 
 前回触れた『ひどいイベント』と対になるもうひとつの作品のタイトルは、『ミスターブックOフときどきゲOマスター』で、英訳タイトルは、そのモチーフがあまりにドメスティックなもののため『Untranslatable』とし、その次に以下の副題をつけた。それは作品のマテリアルを記述する欄に、実際に用いた鏡やガラスといったものと同列に記載した「地方消費」という項目に対応するものだ。
 
その副題は:
acdcalecempirealiceinchainsanthraxartensembleofchicagoasherd&daddyfreddyaswadatariteenageriotaudioslaveautechrebakufuslumpbasspatrolthebetabandbeastieboysbimshermanblooddusterbootsycollinsbustarhymescannibalcorpsecarlcraigcorrosionofconformitycryptopsycypresshilldrideathdelasouldigitalundergrounddinosaurjrdj6666feattheillegalsdjspookythatsubliminalkiddmxdrdreecdentombedfaithnomorefantômasfatboysgeorgeclintongoldiehardfloorhellchildhelmethiromigohouseofpainjb3icetimpalednazarenejeffmillsjuliancopejunglebrotherskenishiikurtismantronikkomekomeclublaibachlaurinhillmanforevermantronixmasterpmegadethmelvinsmethodofdestructionthemightymightybosstonesministrymisfitsnaughtybynaturenineinchnailsozzyosbourneobituarypanterapigprimalscreamprimusprinceandtherevolutionprincebusterpublicenemypublicimageltd.raelredhotchilipeppersradioheadrdprejierisefromthedeadrollinsbandtherootssepulturaskidrowslayertheslitsslytherevolutionarieswithjahthomassmapsodsodomsonicyouthsoundgardentakkyuishinotelevisiontooltsoltwigytwilightcircusdubsoundsystemtypeonegativeulverskullthrashzonevolumeithepachinkomusicfromsankyowagaseishunnomeishatachitype1warxclanutadahikaruoginomeyokokoizumikyokohamasakiayumi
 
 この文字は注意深く見ていただければ(音楽に少しでも興味のある方なら)分かると思うが、複数のアーティスト名をスペース抜きでアルファベット順に羅列したものだ。そのアーティストというのは僕が宮城に引っ越してきてから、いやいやながらもブックオフやゲオに通い購入してしまったCDの作者だ。「いやいや」という理由は二つある。一つ目は、この二次流通が及ぼす貧乏くささのループに僕自身が組み込まれてしまうことへの嫌悪、二つ目は、仙台の都市部でさえ文化を担う店が軒並み閉店してしまったことなども影響し、もともとあまりなかった文化がより稀薄になってきているという現状がある中で、自分の消費行為がそれに加担してしまうということへの危惧と慚愧だ。
 その貧乏くささを作品としてフィジカルに具体化したのが『ミスターブックOフときどきゲOマスター』だった。これは上記のような僕の批判が向かう地域文化の不在を象徴していて、フラットな画面で構成される『ひどいイベント』との対比関係を持った作品になっている。貧乏くさく不毛な環境に否応なく取り込まれてしまう自身の在り方に感じる矛盾を『ミスターブックOフときどきゲOマスター』で表し、それに抗う理想を『ひどいイベント』で表すという構造になっている。
 また『ミスターブックOフときどきゲOマスター』に鏡を使ったのは、それらの実店舗やそれが及ぼす影響が何も地方にあるばかりではなく、作品が展示される東京その他の場所にも共通した現象であるという事実を、鑑賞者自身を映すことで彼らにその自覚を促すという意図からだった。つまり「本」「お売り下さい」「HYPER MEDIA SHOP」という文字に自身の顔が(しかもそれがよりによって上野の美術館で)併置されてしまうという皮肉な状況をつくる装置ということだったのだけど、まあほとんど誰もそんなことまで気がつかないんでしょうね、どうせ。ひねりのない直球で単純なトラップなのに。
 上記のことは、貧乏くささを拡大する大企業が地方も東京も関係なく大小の差こそあれど加速度的に乱立し、その土地土地があらゆる意味で貧しい画一化に向かっているということへの批評として行った。
 
 最後に他の要素にも触れておく。
 ブックオフとゲオを象徴する色として青と黄を、それをよりチープに具体化するための素材として量産品のガラスタイルを用いた。大小2種類あるタイルは、それぞれブックオフとゲオに対応していて、タイルの数と面積は、実際の店舗の数を基にその比率を決定し、プログラミングを使ってランダムに配置した。青と黄の比率は半々にした。
  
 制作にあたって調べた店舗数と、それを用いて簡単に計算した数字は以下:

========
ブックオフ

全店
直営店 419店
FC加盟店 523店
合計 942店

―――
ゲオグループ店舗施設

直営店 1,370(△18)
代理店 92(△7)
FC店 128(+7)
合計 1,590(△18)

///////

ブックオフ:ゲオ = 37:63

ブックオフ+ゲオ:ブックオフ=100 : x
2532(942+1590) : 942=100 : x
x = 94200/2532=37.2

ブックオフ+ゲオ:ゲオ=100 : y
y=100-37.2=62.8

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※写真が『ミスターブックOフときどきゲOマスター』

ホームページちょいちょい更新してます。
http://yoshihirokikuchi.org

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*追記1 (2016.3.30):
 この展覧会が撮影禁止だったということを今はじめて知り唖然としています。
主催者側のプレスリリースにはこうあります:

 《「VOCA展」は、現代アートにおける平面の領域で、国際的にも通用するような将来性のある若い作家の支援を目的に1994年より毎年開催している美術展です。》
参照元:http://www.ueno-mori.org/mrmm/mediaorg/downloadpdf_9_0.pdf

 SNSによる情報拡散が、思いがけず強い影響力を発揮するということが当たり前に起こる現状にあって、その認識が正常に機能しているならば撮影禁止ということはないだろう。時代錯誤も甚だしい愚かな規則だ。
 考えなくてもわかることだが、撮影を禁止するということは、オンラインで各作品のレポートを画像付きで発信するということを不可能にする。世間に認知されていない作家の作品は、その批判も含め広く議論される機会を持たれることが何より重要なのではないのか。そのきっかけごと潰してどうする。話にならない。もし、そこで悪評のみが立ち、その後の活動が滞るようならば、その作家の才能に問題がある、という覚悟は主催者、事務局、推薦者、作家全員がしっかりと持つべきだ。

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*追記2 (2016.3.30):
 欧米の美術の洗練された表現に比しての日本の動向(特に今回のVOCAのようなコンペ形式の展覧会)、または日本のだらしのない美術教育の帰結としての保守性に比しての欧米の表現の先進性、の比較論というか二元論で、いつも批判の対象になるのはもちろん日本の方だが、その批判者が自身の振舞いの問題点にも自覚がないのはどうも気になる。あなた方には、あなた方が称揚するグローバルスタンダードとこの国の美術のよろしくない動向を同じ俎上で議論し接点を探る、またはあなた方がさんざん指摘する日本の問題点をいかに解決していくべきか、ということまでの想像力が働いていない、と僕は感じる。自国と他国の文化の乖離をただ嘆くのではなく、より建設的な議論をしてほしいと思う、いやするべきだ。そしてその理想に向けて現実を変えるよう行動していただきたい。
 まあ僕はいずれにも便乗や盲従はしたくないですがね。ただ自分にも戒めとしてとどめておきます。

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※追記3 (2016.3.31):

VOCA展にぶち込んでいた物販のリストです。小銭が欲しいのと、一応僕がどんな奴かということを示しておきたくて手元にあるもの全部ぶち込みました。こんなに物販に力入れる奴は今までもこれからもいないでしょう。売れない物販に力を入れるのは僕のいつものスタイルです。
担当していただいた美術館の方はとても親切でした。それは素直に感謝しているところです。

作品集と音源は一部まだ在庫がありますので、興味のある方がいらっしゃいましたら、ご連絡ください。美術館での販売は、売り上げの25%を差し引かれることになっていたので、割高にしていました。ですので、僕個人からでしたら安く販売可能です。

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【書籍】

『GRAMMATICAL LUXATION』Yoshihiro Kikuchi
作品集 A5サイズ 580ページ 本文:モノクロデジタルプリント/カバー:オフセットプリント 2015年 YOSHIHIRO KIKUCHI EDITIONS (JPN)

『No Title』Yoshihiro Kikuchi
作品集 A5サイズ 40ページ フルカラーデジタルプリント 2012年 TYCOON BOOKS (JPN)

『青空だと思ったら花柄だった』まつたけの浜(菊地良博)
A6(文庫サイズ) 75ページ + カバー まつたけ書店出版部(宮城県)

【音源】

『3 solo live recordings』Yoshihiro Kikuchi
CDr 2015 (Yoshihiro Kikuchi self-released)

『2 solo live recordings』Yoshihiro Kikuchi
CDr 2016 (Yoshihiro Kikuchi self-released)

『Collaboration』VOMIR + Yoshihiro Kikuchi
C 40 cassette tape 2015 GERAEUSCHMANUFAKTUR (GER)

『Drumming Echo Music featuring Yoshihiro Kikuchi』SEIDO
CD 2010 New Art Laboratory (JPN)

『LIVE VOL.1』まつたけの浜(菊地良博)
CDr (ノイズ添加逆回転DJミックス=ゴミ)2016

『LIVE VOL.2』まつたけの浜(菊地良博)
CDr (ノイズ添加逆回転DJミックス=ゴミ)2016

キーワード:

ブックオフ / ゲオ / 貧困


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菊地良博

ゲストブロガー

菊地良博

“宮城県在住 美術家/実験音楽家 ”


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