これは衝撃です。私はかねてから映画と彫刻の類似性を考えており、私の友人や知人に対しても、映画を作ることと彫刻は作ることはほとんど同じである、というような極端なことまで私が言っていたことは、ご存知だと思います。
とりわけ私は経験的に、映画の編集には大きく分けて二つのアプローチがあり、それは彫刻における直彫り(ダイレクトカービング)と塑造(モデリング)の関係に対応するのではないかと考え、最近は彫刻の本まで読んでこの仮説を実証できないかと考えていました。
また、私と同じように映画を彫刻との比較において考え、論じている人はいないだろうかと思っていたのですが、最近、新装版が発売された『映画の瞬きー映像編集という仕事』(フィルムアート社)という本をパラパラと読んでいたら、『地獄の黙示録』『イングリッシュ・ペイシェント』などの編集者として知られる著者ウォルター・マーチがまさに「大理石と粘土」という表題までつけてそのことについて論じていたのです。
しかも、映画の編集において塑造に対応するものを「ランダム・アクセス」、直彫りに対応するものを「リニア・アクセス」と呼んで、概念化までしているのです。
しかもしかも、ウォルター・マーチ自身は、ランダム・アクセスの弱点を指摘し、ランダム・アクセスに対するリニア・アクセスの優位性を唱えている節があり、これは私が経験的に考えていたことと全く同じであり、さらに言えば、彫刻史において塑造に対する直彫りの優位性を唱えたミケランジェロやブランクーシの系譜にまで繋がるものです。
かつてミケランジェロは「大理石の塊の中に聖母の像は隠されている。私はただそれを掘り出すだけだ」みたいなことを言っていたと思いますが、ウォルター・マーチがミケランジェロを参照していたのかどうかは定かではありませんが、「隠れてこそいるが、すでに作品はその固まりの中にあるわけで、粘土のように何もないところから積み上げるのではなく、余分なものを削り取るように作品を露にしていく」とミケランジェロと全く同じことを言っているのです。
この本は「映画編集のバイブル」ということなので、私がただ無知なだけで、「ランダム・アクセス」「リニア・アクセス」といった概念も、一般的に知られていることなのかもしれませんが、講演をもとにした平易な文章で書かれており、分かりやすく、私にとっては驚きに満ちた本です。
ウォルター・マーチ『映画の瞬きー映像編集という仕事』(フィルムアート社)
http://filmart.co.jp/books/movie/review/walter_murch/
【吉田孝行プロフィール】
1972年北海道生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程終了。映画美学校で映画制作を学ぶ。東京フィルメックス2014でアジアの映画人材育成事業「タレンツ・トーキョー」のコーディネーターを務める。ドキュメンタリー専門誌「neoneo」の編集に携わる。共著に『アメリカン・アヴァンガルド・ムーヴィ』(森話社)など。近作『ぽんぽこマウンテン』(2016)が、パルヌ国際映画祭、デトモルト国際短編映画祭、ジョグジャ・ネットパック・アジア映画祭など、20か国以上の映画祭に選出されている。イラク北部クルド自治区で開催されたスレイマニヤ国際映画祭2017で審査員を務める。新作『タッチストーン』(2017)が、2017年12月にインドネシアのジョグジャカルタ国際ドキュメンタリー映画祭で世界初上映される。
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吉田孝行作品『タッチストーン』
(撮影・編集:吉田孝行/2017年/15分/HD/16:9/カラー&白黒)
日本のとある庭園に置かれている白い色の大きな丸い石。大理石の彫刻作品であり、その上に子ども達はよじ登って遊んでいる。「自ら進んで子ども達のために仕事をする芸術家は、間違いなく普遍的なものにまで達するのだ」というフランスの映画批評家アンドレ・バザンの言葉に着想を得て制作された。本作はまた、アンドレ・バザンが論じた映画と他芸術との美学的共生の可能性を、彫刻を対象として探求した映像作品でもある。前作『ぽんぽこマウンテン』に続いて、子ども達の姿を描いた映像作品の二作目。
吉田孝行作品『ぽんぽこマウンテン』
(撮影・編集:吉田孝行/2016年/10分/HD/16:9/白黒)
「ぽんぽこマウンテン」とは、日本のとある公園に設置されている白い色のエア遊具のことです。雪山のようなトランポリンであり、その上で子ども達は、ぽんぽこ飛び跳ねて遊んでいます。曲線のあるユニークな風景の中で、無邪気に遊んでいる子ども達の姿を、動画と静止画の組み合わせで表現したモノクロの映像作品です。作品の冒頭に引用される「子供心を失った者は、もはや芸術家とはいえない」という彫刻家コンスタンチン・ブランクーシの言葉に着想を得て制作されました。