相米慎二監督の回顧上映が欧州で実現した。昨年6月にエジンバラ、11月にナント、12月にパリで全13作品を上映。1980~90年代に傑作を放ちながら、海外でほどんど紹介されなかった相米は「現代の日本映画に対する認識の死角」(シネマテークフランセーズのジャン=フランソワ・ロジェ氏)。現地評は驚きに満ちている。
カイエ・デュ・シネマ誌は撮影所の崩壊とバブル景気という80年代の日本の時代背景に触れながら「時代の軽さをとらえつつ、強いこだわりを持つ完壁主義者」「夢見るアナーキストの刻印を残す作品は反体制のイデオロギーが消滅した時代にあって、その時代を突き抜ける」(ステファヌ・デュ・メニルド氏)と称賛。リベラシオン紙は長回しの技法をオーソン・ウェルズやアントニオーニに比肩し「綱渡りのような独特の美学」(ジュリアン・ゲステール氏)と評した。
「世界がぐるりと逆転し、あらゆる価値の転倒がおこる」とするマチユー・カベル氏の批評は「その先に進めない所を踏み越えてしまうリスクを抱えた作家だ。当時の日本映画に欠けていた活力をよみがえらせたのは、そんなリスクを引き受けていたからだ」と結ぶ。
世界は遂に相米を発見した。全作品の凱旋上映が1月19日~2月1日、東京・渋谷ユーロスペースで
(昨日1/19日経朝刊最終面より)
相米監督には、ゆうばり映画祭の第一回夏期ワークショップで講師で来ていたときにお会いした(他に若松監督や中原俊監督などがいた)。現場の厳しさは聞いていたが、普段はとてもシャイであまり話さない方だった。その後しばらくして亡くなられて、一人でお葬式に行った。相米作品で一番好きなのは「ラブホテル」だ。