この間、久しぶりにほっかほっか亭の「唐揚弁当」を買ったら、410円が480円になってました。でも、からあげは1・5倍以上に増えていた。中身の充実ぶりは値上げ以上で、びっくりした。一瞬「豊かだな」と錯覚するけれど、すぐに不安になる。からあげが大好きな私でも、今までの内容で十分だった。こんな大量のからあげ、食べきれないですよ。「ほか弁、そんなに無理せんでええ」と思ってしまう。オフィス街ではランチも数百円です。ちょっと安すぎませんか。そんなすごく安いもんを食べながら、みんなすごく良い服を着てたりする。なにか、ゆがんでいる。・・芥川賞作家・津村記久子氏の談。8月25付朝日新聞朝刊より
2年前、ロサンゼルスで会った日本人女性は、こんなことを私に言った。「こっち(アメリカ)だと服装を考えなくて良いからラク」。
『お笑いL.A.劇場』(やまだゆみこ/光文社)という漫画エッセイにも、似たような話が載っている。作者は日本でOLをしたあとアメリカに移り住み、映像の編集をしている。「服装」というタイトルで、彼女はこう書いている。
ロス暮らしで楽なのは何と言っても服装である
一年を通してたいてい2パターンで足りる
思えば東京でOLしてた頃・・
朝は身支度に一時間
コーディネイトにも気を遣ったものだ
ところが今は・・10分(注・起きてから出発するまでの時間)
寝坊したパニックでねま着のスエットで出かけたことがある「誰も何も言いませんでした」
私は電車に乗っている時、吊り広告をよくチェックする。そこに世相の一端が現われていると感じるからだ。女性ファッション誌は、女性の美しさを引き出すために服装やメイクなど、読者にいろいろな提案をしている。”婚活”の進め方や、気になる男性をモノにする戦略まで。けれどもそれが、逆に女性を生き辛くさせる一因にもなっているのではないだろうか?
「そこまでやらなければいけないの?」「自然体の私じゃダメ?」
『anan』のセックス特集も、指針になるよりも、むしろ女性を戸惑わせたり疲れさせる場合が多いのではと推測する。
昨日、私はコンビニでスポーツ新聞を立ち読みした。たまたま開いたページに、とても興味深い記事があった。
香山リカの新刊『しがみつかない生き方』。売り上げは37万部を超えているそうだ。帯にある言葉が
〈勝間和代〉を目指さない。
今の日本で何かと成功女性として持ち上げられているのが経済評論家・勝間和代氏。しかし彼女みたいに頑張っても誰もがそう勝ち抜けるわけではない。香山リカの新刊は、そんな上昇志向を止めてみませんか、というメッセージが込められている。
記事には香山氏本人のコメントも寄せられていて、いわゆる「勝ち組」と見られている人からの共感も多いと言う。
「成功している経営者の方や有名大学の先生からも『実は自分もやりすぎじゃないかと思っていた』『競争せざるを得ない状況を誰かに止めてほしかった』とか言われたこともありました」
で、私がもっとも興味が引かれたのは、香山氏の次のコメントである。
「ふだんは『もっと美しく』とあおっている女性誌の編集の方からも『そこまでしなくていいのに、と思いながらも雑誌の性質上あおらざるを得なかった』と打ち明けられたり」
こんな風にして、「世間の雰囲気」というものが作られていくのだなと思った。心の中では「なにか違うんじゃないか」と分かってはいる。けれども降りることができない。本心とは違うところで行為が積み重ねられ、結果、わけの分からない『世間の空気』みたいなものが形作られ、本当は多くの人が心の中では「ちょっとそれは違うんじゃないか」「なにかおかしい」と気づきながらも、『空気』に反することで喰らうバッシングや周りから浮くのを恐れ、黙っている。結果、そのわけの分からない『空気』は続き、この島国をますます息苦しいものにする・・。
注 香山氏の記事は、次のアドレスで読めます(スポーツ報知)
http://hochi.yomiuri.co.jp/book/news/20091006-OHT1T00011.htm