スカイプで質問に応じるマイク・ミルズ監督
10月19日(土)から公開の映画『マイク・ミルズのうつの話』は、グラフィックデザイナーとして知られ、『サムサッカー』(2005年)、『人生はビギナーズ』(2010年)で映画監督としても高い評価を受けているマイク・ミルズが、東京に住む5人の抗うつ剤服用者を追ったドキュメンタリーだ。原題の『Does Your Soul Have A Cold? (心の風邪を引いていませんか?)』は、日本で2000年代初頭に製薬会社が大々的に展開した「うつ病啓発キャンペーン」のスローガンから取られている。マイク・ミルズ監督に、制作の経緯および本作に込められた意味を聞いた。
なお、先行上映イベントが10月5日(土)原宿VACANTで開催され、マイク・ミルズ監督も上映後にスカイプで質疑応答に登場する予定だ。
── いよいよ日本で公開されますが、どんなお気持ちですか?
とても嬉しく、やっと念願が叶った思いです。日本で公開されない限り、この作品は僕の中で終わらなかったので。出演してくれた方々は、同じくうつ病で苦しむ他の人たちのために役立ちたい、という思いで協力してくれた、とても勇気ある人たちです。彼らはこの映画で日本のうつをめぐる状況が少しでも変わればと願っていたので、彼らのためにも日本で公開に至って本当に嬉しいです。
── なぜ“うつ”をテーマに、日本で撮影することにしたのですか?
実際に制作に入る4年ほど前の2003年頃のことですが、あるとき、日本で友人とコーヒーを飲んでいたら、彼女が抗うつ剤を取り出して飲みはじめたんです。僕には、その光景が新しいグローバリゼーションに見えたんです。抗うつ剤という極めて欧米的な発明品が、友人の体内に入って脳に作用し、感情に大きな影響を与える。そんなもっとも脆弱な部分で、グローバリゼーションが起きているように思いました。それで調べていくうちに、製薬会社が日本にも広告キャンペーンを展開しているというニューヨークタイムズ紙の記事を見つけたんです。
映画『マイク・ミルズのうつの話』より
── “うつ”は脳の病気、心の病気、どちらだとお考えですか?
うつは複雑なものですし、脳や感情や、心に関わるすべてのことはとても複雑だと思います。あらゆる要因が同時に起こっています。脳の中では、うつの一因になる化学的な問題が実際にいろいろ起こっていると思うし、自分の感情に衝撃を与えるような体験をすれば、それもまた「現実的な」要因です。抗うつ剤の効能に疑問を呈する研究も多数ありますが、実際に効いている人も多くいるようです。もし服用している本人が効いていると言うなら効いているのでしょう。ただし、鬱から抜け出すための長期的・持続的な道は、セラピー、運動、友人や家族を持つこと、自分に正直でいられる世界に暮らすこと、自分にとって意味をなす世界に暮らすことが組み合わさった、もっと総合的なものではないでしょうか。
── 出演者の方々がカメラに対してとてもオープンで、監督への信頼感が伝わってきましたが、彼らとはどうやって信頼関係を築いたのですか?
彼らがあんなにオープンにしてくれたのにはいろんな理由があると思いますが、まず1つは日本のプロデューサーだった保田卓夫さんの人柄です。最初に出演者たちとコンタクトを取ってくれたのも彼で、細やかな気遣いをする彼がいたから、みんな心を開く気になったのでは。それと、僕はカメラの前に立ってくれる人たちを愛しているので、彼らにその愛が伝わったのかもしれません。誰かが誰かに自分について正直に打ち明けるという行為は、人間同士の間で起こる最も美しいことの1つでしょう。だからカメラの前の人たちをリスペクトするんです。あと、僕は鬱に対して何の偏見もなくて、共感や心配する気持ちしか持っていないので、安心感があったのかもしれない。
映画『マイク・ミルズのうつの話』より
── この映画を制作して、監督自身に変化はありましたか?
アメリカではうつの知り合いが大勢いますし、自分も軽いうつがあると思っています。でも、深刻なうつの人たちとここまで深く話した経験はなかったし、軽度のうつとはまったく違う状況でした。企画当初は、抗うつ剤と製薬業界に対して、全般的にかなり批判的な見方をしていました。でも、出演者の何人かが薬で助けられたと感じていて、僕は出演者の人たちを尊重するので、この映画を撮り終わったときには、投薬に対してもう少し複雑な見方に変わりました。
── 登場人物の持ち物にフォーカスされているのが、とても面白いですね。どのような基準で選んだのでしょうか?
僕はその人の持ち物を見ると、その人がわかると思っています。身の回りにある持ち物は、自分が気に入って選んだオブジェであろうと、たまたま手元に残ってしまったものであろうと、どちらでも持ち主について多くのことを語ってくれます。撮影中、適当に選んで撮ったものは1つもないですが、一見あまり重要そうでないものが、その人がいる場所、その人が暮らす文化について多くを明かすということがあります。人生は自分の思い描いた通りにコントロールできるわけではないですが、“どんな風に生きたいか”、それは持ち物やその人の住む場所を見ればよくわかります。
映画『マイク・ミルズのうつの話』より
── 本作の後に監督された『人生はビギナーズ』には、このドキュメンタリー制作は影響を与えましたか?
自分のやっていることの中で、ドキュメンタリー制作から学ぶことが一番多いですが、本作のように人の内面や、人はどのように物事を決めるのか、人はどのように生きるのかについて迫るものである場合は特にそうです。自分の映画はどれも本質的にそういう内容であって、『人生はビギナーズ』も完全にそうです。だから『うつの話』からは映像を通して人を理解することの訓練になりましたが、出演者全員がとりわけ優しい人たちだったので、より大切な作品になりました。このドキュメンタリーを編集している間、朝は『人生はビギナーズ』の脚本を書いていたので、この2本はいとこや兄弟みたいなものです。具体的にどう影響し合ったかはわからないけれど、僕のすべての映画に共通しているのは、自分で作った檻から抜け出して、真の自分になろうと、ハッピーで自由になろうともがいている人たちの話です。
── 次回作について教えてください。
『人生はビギナーズ』が終わってから書き進めているのは『Oh Wow』という映画の脚本で、1979年のサンタバーバラで一人の10代の少年を育てる3人の女性の話です。フェミニズム、パンクロック、男として成長すること、自分の人生をコントロールすらできない世界で自由になることについての映画です。僕自身、女性たちに育てられてきて、それは家族だけでなく、自分が10代の頃にいたパンクロック・シーンの中ですごく強い女性がいて、そういう意味で自分が成長していく中で接した女性たちのポートレートです。笑える映画にしたいと思っています。個人的な映画はアメリカに限らず、公開までもっていくのは難しいです。脚本をもうじき書き終えるところだけれど、そこからお金を得て、制作して、公開するまでどのくらいかかるか。全部達成できたらラッキーといったところです。
(2013年9月26日、Skypeにてインタビュー)
マイク・ミルズ監督スカイプ出演!
『マイク・ミルズのうつの話』先行上映イベント
2013年10月5日(土)原宿VACANT
マイク・ミルズ監督 ©Sebastian Mayer
開場15:30/開演16:00
料金:前売/当日1,500円
<トークゲスト>
マイク・ミルズ(『マイク・ミルズのうつの話』監督)*スカイプ出演
保田卓夫(『マイク・ミルズのうつの話』プロデューサー)
http://event.hutu.jp/post/60167588505
【ご予約方法】
件名を「マイク・ミルズのうつの話」とし、本文に「お名前/人数/ご連絡先」を記入したメールをbooking@n0idea.comまでご送信ください。
*万が一、2,3日経っても返信がない場合は、03-6459-2962(VACANT)までお電話ください。
映画『マイク・ミルズのうつの話』
2013年10月19日(土)より、渋谷アップリンク他全国順次公開
監督:マイク・ミルズ
撮影:ジェイムズ・フローナ、D.J.ハーダー
編集:アンドリュー・ディックラー
制作:カラム・グリーン、マイク・ミルズ、保田卓夫
出演:タケトシ、ミカ、ケン、カヨコ ダイスケ
配給:アップリンク
宣伝:Playtime、アップリンク
原題:Does Your Soul Have A Cold?
84分/アメリカ/2007年/英語字幕付
公式サイト:http://uplink.co.jp/kokokaze/
公式Twitter:https://twitter.com/uplink_els
公式Facebook:https://www.facebook.com/kokokaze.movie