2009-08-24

細部への目配りが行き届いたスリリングな展開に感心 このエントリーを含むはてなブックマーク 

 チラシやこの作品のホームページなどに「カーアクションが凄い」とあったので、同じリュック・ベンソン「TAXI」のような内容を想像して見に出かけたら、その想像とは全然違った、フランスの潜入捜査の実態をドキュメンタリータッチで的確にとらえたシリアスなサスペンスで、いい意味で裏切られた。この作品、今までのリュック・ベンソンのものとは、かなり趣きが違う。

 映画の最初から最後まで、いたるところで感心させられたのは、ディテールの細かさだ。主人公の警察官マレクは、泥棒の一味などに潜入して犯人逮捕に協力する形で信頼している同僚に関わっていたのだが、その同僚が麻薬密売の摘発の最中に密売屋たちの凶弾によって亡くなってしまう。そこからマレクは、ヨーロッパを席巻している麻薬組織の摘発のために、潜入捜査を行う組織へと入るのだが、映画の前半、その組織でマレクが訓練される様子を細部にわたって描いていたのは、とても興味深いものだった。特に、夜寝ているところを叩き起こされて川に放り込まれるシーンは、潜入捜査が死と背中合わせであるほどに危険なことを、主人公マレクだけでなく観客までも思い知らされて、ちょっとドキドキしてしまった。

 そしていよいよマレクが麻薬組織へ潜入捜査していく映画の後半も面白い。組織に信頼されるために、警察官でありながら一般の家に強盗に入ったり、組織の裏切り者を殺したりと、悪の組織へと自分から踏み込むマレクの淡々とした表情には凄みを感じさせられた。また、軍事衛星まで使うハイテク機能を駆使した麻薬組織を追う側の描き方もなかなかに見応えがある。あまり細かく言うとこれから映画を見る人の興味を削いでしまうので伏せておくが、驚くほどの細かい目配り、そこまでやるのかと思うくらいの用意周到さなど、麻薬組織側とそれを追う側との丁々発止の駆け引きを細かいところまで演出していることで、派手なアクションなどなく、やや地味な印象はうけるかもしれないが、とてもスリリングな内容を楽しめる作品に仕上がっている。チラシなどにあるように、カーアクションも確かに迫力は感じられたが、この作品の見どころはアクションよりも、アクションに入るまでの細部、ディテールにあると感じた。

 リュック・ベンソンは、以前、「レオン」で新しいフィルム・ノワールの幕開けを見せてくれたが、今回の「ゴーファースト」でさらに一世代進んだ、今のフィルム・ノワールを見せてくれたような気がする。

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山中英寛

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