冒頭から誘拐身代金強奪のトリックで楽しませてくれます凶悪で極上なエンタメ作品でした。
凶悪というのは、もちろん玉木宏演じる、主人公の結城美智雄。
彼は今まで「のだめカンタービレ」「KIDS」「真夏のオリオン」など割と正統派のやわらかいイメージの役柄が多かったですが、眼鏡の奥の冷酷な眼に圧巻でした。この役柄のために減量した苦労もうかがえます。多彩なカメラワークと、ダークな画面の色と、冒頭のバンコクでのカーチェイスアクションが、今までの邦画と一線をかくすと思えます。冒頭シーンからヒートアップさせてくれます。様々な策を張り巡らし、その上更に我々の予想をこえるトリック。又彼と同郷の苦悶する神父役の山田孝之さんの重みのある演技も良かったです。目立たない地味な役だからこそ、安定した演技がはまっていました。
原作とは若干違う設定もあり、残念な部分もありましたが、クオリティの高い楽しい129分間でした。
善と悪、光と闇、破壊と祈り、我々が生きる現代社会には様々な対極があります。手塚作品は大人向け作品なので、良い意味で現代の問題をなげかけてくれる作品です。この映画では人間の裏表の二面性を考えさせてくれる作品だと思います。何が善で何が悪か、表裏一体で、何を信じていいのか?
それぞれの立場によって、行動を起こすことが正義だと信じていても、それはいつでもひっくりかえされてしまう。復習が正義なのか?と深く考えさせられました。『善』と『悪』の二元論だけでは語れない、この世界の深い闇。原作を読んだ人も、読んでいない人も楽しめるエンタメ作品です。