アップリンクが『 VAXXED』の配給を断念するに至った経緯。
2016年4月の行われるトライベッカ映画祭で『VAXXED』が上映中止となった記事をアメリカのメディアで知り、webDICEでは、TOPICSで記事として取り上げた。
http://www.webdice.jp/topics/detail/5090/
(ただこの記事で、映画とは全然別の当時問題になっていた「子宮頸がんワクチン」について記したことは、全く違う問題なので、編集部として配慮がなかったことを指摘された)
その後、配給を検討するために映画の権利を販売しているセールス・エージェントにコンタクトを取り、映画本編を見ることのできるリンクを送ってもらった。
映画を視聴した後、告発ものとしては、もしこれが真実なら驚くべきことだが、自閉症の原因が新三種混合ワクチン(MMR)であるということはにわかに信じることができなかった。
なぜなら、アップリンクではサンドリー ヌ・ボネール監督の『彼女の名はサビーヌ』というボネール監督の自閉症の妹を描いた映画を2008年に配給した経験がある。
その際、自閉症の専門医の方に面会し様々なことを教えてもらったり、施設を訪れたり、また宣伝スタッフは自閉症の子供たちと一緒に時間を過ごしたりして映画を理解することに努めた経験があった。その際に専門家からMMRワクチンが原因という説があること教えてもらったことは一度もなかった。
その時にお世話になった方達にもこの映画『 VAXXED』の事を聞いた。MMRワクチンと自閉症の関連があるかという問いには、誰一人、そのようなことは聞いたことはないということだった。
2016年4月10日以下のツイートをした
>>デ・ニーロが公開を取りやめたワクチンと自閉症の問題を描いた映画『VAXXED 』アップリンクにて本編全編を視聴できますので、興味がある専門家で英語が理解できる方、この映画が公開に値するかを確認したいので協力ください。連絡は→ asai@uplink.co.jp
このツイートにより、予防接種に詳しい小児科の医師の方、ナチュラリストとでも言えばいいのか自然派で、ワクチンを身体に摂取するのに反対の人たちから連絡があった。
そこで、医師の方、ナチュラリストの方、数名で試写を行った。
ナチュラリストの方は是非公開すべきだ、応援するというコメントをもらった。医師の人からは信ぴょう性に欠けるというコメントだった。
アップリンクでは、本編に引用されているその資料を検証するために出典元を権利元に問い合わせるなどした。
その中でも特に、本編で登場するカルフォルニアとデンマークと日本の自閉症発症率を示すグラフが、日本ではMMRワクチンの接種が1993年に中止されているにも関わらず、飛躍的に自閉症発症率が伸びていることがおかしいと思い、このグラフが日本人にとっては最も関心を引く部分であったため、権利元に出典元の論文を訊ねたところ、その論文のPDF(トップのグラフ)が権利元から送られてきた。
それは米国化学会が発行する『ENVIRONMENTAL SCIENCE & TECHNOLOGY』という学術雑誌のVOL. 44, NO. 6, 2010に掲載された「Timing of Increased Autistic Disorder Cumulative Incidence」(筆者:米環境保護庁の研究者であるMICHAELE MACDONAL氏とJOHN F. PAUL氏) という論文だった。
この論文を前述の小児科医に読んでもらったところ、以下の指摘がきた。
1)この論文では予防接種によって自閉症が増えた可能性については言及していない。
2)この論文が参照元としている日本の研究者による論文は、自閉症とMMRは関係がないという結論づけている。
映画の中ではMMRによって自閉症が増えているモデルの中に、このグラフが示されていた。これを受けてアップリンクでは、本作がグラフを持論に有利なようにミスリードしていると判断しそのことが理由で買付をしない事を2016年5月に報告した。それに対して、エージェントからは重要な映画なので再度検討してほしいという申し出があった。