山中英寛さんの日記
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2013
5月
17
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【『三姉妹~雲南の子』クロスレビュー】冷徹なまでの距離感が描き出す、観光ではわからない雲南省の実態
四年前、日本では野球のWBCで盛り上がっていた頃に、私は母や叔母たちと一緒に、麗江や昆明、虎跳峡などを巡る中国・雲南省の観光旅行を楽しんでいた。どこも国内や海外の観光客で大賑わい。街には、その観光客たちを迎える近代的な施設が次々と建設されていて、地方都市までも発展する中国の躍進を肌身に感じられた。 そんな旅の中、気になったのは観光地から観光地へと移動する際の車窓から見える、今にも崩れ落ちそうな...
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2012
7月
30
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『フェイシング・アリ』クロスレビュー:ヘビー級の幸せな時代を作ったボクサーたちの傾聴すべき証言の数々
1971年の3月のある日。モハメド・アリとジョー・フレージャーが戦った世界ヘビー級タイトルマッチをテレビで見ていたとき、フレージャーが圧勝する姿に、「これ以上強いチャンピオンは現れないだろう」と思った。しかし、未熟で稚拙な知識しかなかったボクシング・ファンの私の予想など鼻先であざ笑うかのように、ケン・ノートンが現れ、ジョージ・フォアマンが華々しく登場。そして、あの伝説の「キンシャサの奇跡」で、再...
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2012
6月
29
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『ラ・ワン』クロスレビュー:ミュージカルシーンもCG特撮も迫力満点!、インド映画初体験にぜひ!
「CGアクションものなら、香港映画やハリウッドの領分」なんて思っている人が、この映画を見たら、考えを変えざるおえないだろう。それくらいにこの「ラ・ワン」は、ハリウッドにも香港にも負けない、よくできたCGアクション大作だ。 まず戦うのがゲーム・キャラ、という設定がいい。あらかじめゲーム画面以外に特製フィギィアを作っておいて、そこにキャラの魂を入れるというのは、ホラー映画の設定をうまく引用し...
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2011
12月
07
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映画『UGLY』のレビュー:ネットから劇場へ、ムーブオーバーも当然の高いクオリティー
ネット配信されていた映画の試写会、ということで、若干の不安もあったのだが、見終わった後は最初の不安も消し飛ぶくらい、面白く、興味深い映画との出会いに、得した気分になった。実は、同日同時刻の『ワイルド7』の試写会も当たっていたので、どちらにしようか迷っていたのだが、こちらにして正解だったようだ。 オープニングからしばらくは、登場人物の自己紹介的な演出が目立ったため、ややのらりくらりしたものを...
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2011
12月
06
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『ポール・マッカートニー THE LOVE WE MAKE』クロスレビュー:人間味あふれるポールに集まる素顔のミュージシャンたち
元々歌っていた人(サイモン&)ガーファンクル)よりも情感たっぷりに「アメリカ」を歌うデビット・ボウイ、実はいじられキャラだったザ・フーのピート・タウンゼント、お茶目すぎるビリー・ジョエル、全く聴いたこともなかった曲にギター・ソロを見事にのせる天才エリック・クラプトン….、この映画に登場するミュージシャンたちの魅力やステージに上る直前までの素顔は、実に楽しく、見ていて面白い。そして、それが9.11...
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2011
10月
27
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『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』クロスレビュー:革命を信じた羨ましい男の物語
私は、見沢知廉とほぼ同世代だ。だから、東大紛争も、三島由紀夫の切腹事件も、よど号事件も、三里塚闘争も、見沢と同じような視点から見ていた。そして感じたのは、あそこまで何かを信じられるものがあることが、とても羨ましかった。思想や革命が信じられるほど、私はハナから純粋ではなく、人も社会も信じてなかったからだ。 この作品では、信じていたものがあった男が駆け抜けた人生が綴られている。それは、革命家や思...
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2011
4月
18
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『ハリウッド・バビロン』クロスレビュー:「黄金時代のハリウッドとは、切り立った崖っぷちで豪勢なピクニックを楽しんでいたようなもの」
1980年代、私が学生だった頃、ケネス・アンガーは、自主映画界の神様のような存在だった。その当時、新宿や渋谷にあった小さな映画上映スペースでは、毎週のようにケネス・アンガーの独創的で奇抜な内容の短編が上映され、映画を芸術と信じていた、(自分も含む)青くさい映画青年たちを集めていたものだった。 だから、89年にケネス・アンガーの本「ハリウッド・バビロン」が出版されると聞いたとき、彼の映画に心酔...
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2011
2月
25
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『レイチェル・カーソンの感性の森』クロスレビュー:名手ウエクスラーも魅せる自然環境への愛
この作品から、誰もが連想するのは、産業革命以降にイギリスで起こったナショナル・トラスト運動だ。アメリカが経済的に世界をリードしようとした時代、「自然回帰は、人類にとって大切なこと」を提唱したレイチェル・カーソンの行動は、ナショナル・トラストとまさに同じものである。 しかし、レイチェル・カーソンが提唱してきたことを、世界で行われているかというと、レイチェルのアメリカを含めて、先進国ですら、できて...
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2010
11月
17
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『バスキアのすべて』クロスレビュー:キュートな笑顔に隠された深遠な芸術性に、再び光を...
この作品は、生前のバスキアにインタビューした、およそ20分のフィルムをもとにして製作されている。そのためにたくさん肉付けをしすぎたのか、私個人としては全体的にやや冗長した印象は否めないものに感じた。しかし、一時代を築いた芸術家を追ったドキュメンタリー映画としては、充分に評価できると思う。 このドキュメンタリー映画の中で印象的だったのは、バスキアのチャーミングな魅力だ。特に笑顔はとてもキュ...
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2010
10月
27
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『白いリボン』クロスレビュー;ハネケが観客につきつけた、難しい練習問題にどれだけ解答できるだろうか
ここは、これから見る方のためのプレビユーなのだから、ある程度の物語やこの作品の個性を際立たせているような代表的なシーンを紹介するべきだ。しかし、この『白いリボン』に関しては、それをすることが実に難しい。と、言うのも、全編においてほとんど説明的なものが少ないうえに、監督ミヒォャエル・ハネケがそのシーン、演出への回答を観客にあずけてしまっているからだ。つまり、物語やシーンの話をするのは、この作品をこ...
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2010
6月
22
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『ストーンズ・イン・エグザイル』クロスレビュー:名曲を作る、ならず者たちを楽しむドキュメンタリー
ミュージシャンをとらえたドキュメンタリーは、ときに宣伝臭さが鼻について、つまらないものもあるが、ローリング・ストーンズを主にしたドキュメンタリーは大概面白い。それは、おそらくだが、自分たちがマスコミに表面的ばかりとらえられるだけで真実を見てくれない、だから、ドキュメンタリーのときは何もかもブッチャけるように真実を語ろうとしているのではないかと思う。今回も、ストーンズの名盤の裏側をしっかりととらえ...
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2010
5月
06
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『春との旅』クロスレビュー:「孤独」と向き合う指針が描かれた秀作
この作品で何回も出てくるのが、寒いのにもかかわらず外気を入れるために窓を開ける、という演出だ。締め切った部屋の窓を開けるのは、空気を入れ替える、風通しを良くする、との意味でするものだが、それは、この作品のテーマであり、一番の見どころを表現している。 北海道のさびれた港町から、孫の春が失職したために、一緒に暮らしていた祖父の忠男は自分の老い先の面倒をみてくれるところを求めて、春といっしょに...
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2010
1月
18
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華麗に読み進めて、先々も華麗につづく...
「少女革命ウテナ」や「セーラームーン」でもすんなりとストーリーが進行させない幾原さんの原作漫画なので、これもそうだろうとの予想は見事に当たったが、前記二作品よりもキャラクターが華麗で楽しいとは予想外だった。しかも、このキャラでハードボイルド、と意外性に富んでいるところも、これから読む人にはおすすめしたい読みどころだと思う。 タイトルが「ノケモノと花嫁」なのだから、カケ落ち話からスタートす...
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2010
1月
17
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ファム・ファタールものなら、命を賭けてでも愛する勇気を見せてほしい
中山美穂演じるトウコが泊まっているバンコク有数の豪華ホテルのオリエンタル・ホテルの美しさが、とても印象に残る作品だ。特に、トウコがいる部屋「サマセツト・モーム」の華麗さは驚くばかりだった。オリエンタル・ホテルは、モームやジョセフ・コンラッドなどの宿泊した有名作家たちの名のついた部屋があり、たぶん原作者にとっては有名作家と同じ部屋に泊まったときの感動が忘れられなかったのだろう。その原作者の感動や思...
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2010
1月
07
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2009年度公開映画 私のベスト・テン
日本映画 順位 外国映画 ディア・ドクター 1 チェ 28歳の革命 サマーウォーズ 2 長江にいきる ビン愛の物語 妻の貌 3 愛を読むひと 重力ピエロ 4 ミルク 空気人形 5 グラン・トリノ ゼロの焦点 ...
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2009
12月
23
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クリスティンの名演に惹きこまれる感動作
主演のクリスティン・スコット・トーマスが絶品の作品だ。あまり感情の起伏を見せず、ほとんどが無表情なのだが、人生で背負ってきたものの重さを内面から感じさせる、見事な演技には終始感服してしまった。そのクリスティンの名演から、声なき声で語られる元囚人の孤独感、そして息子を殺した罪悪感が、この作品の大きなテーマとなっている。 この作品の物語では、元囚人を受け入れがたい社会、囚人だった者を家族とし...
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2009
12月
03
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ムーアさん、「ザ・コーポレーション」をもう一度見てね
「華氏911」以来、マイケル・ムーアという人は大のブッシュ嫌いであり共和党嫌い、というのを声高に叫びたがることはわかってはいたが、この新作ではそれがさらにストレートに表現してみせている。レーガンやブッシュがやってきた経済政策がここにきて一気に崩壊し、リーマン・ショックが起こり、現在のアメリカの経済破綻が生じた、と映画全編にわたって主張していたのには、よくぞここまで噛み付くなあ、と感心させられてしま...
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2009
9月
27
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少年たちの声なき叫びが聞こえる
最近、話題になっているウイグルに関して知ることができるか、と思い試写会に出向いたら、ウイグルてはなくカザフスタンの実情が描かれた内容だったのには、少々残念には感じた。しかし、主人公の少年たちから見えてくる、混迷している中央アジアの現状は、充分に理解できる内容だったと思う。 地元のカザフスタンの少年カエサルとロシアから来た少女マーシャ、そしてウイグルから来た少年アユブの奇妙な同居生活が中心の...
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2009
8月
24
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細部への目配りが行き届いたスリリングな展開に感心
チラシやこの作品のホームページなどに「カーアクションが凄い」とあったので、同じリュック・ベンソン「TAXI」のような内容を想像して見に出かけたら、その想像とは全然違った、フランスの潜入捜査の実態をドキュメンタリータッチで的確にとらえたシリアスなサスペンスで、いい意味で裏切られた。この作品、今までのリュック・ベンソンのものとは、かなり趣きが違う。 映画の最初から最後まで、いたるところで感心...
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2009
8月
08
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人類の良心が試されている...
この作品のフランス語原題は、「子供たちは私たちを告発するでしょう」。これを言い換えれば、「私たちの未来は蝕まれている」ということだ。しかも、その未来は遠い話ではなく、現在進行形の未来であることを、この作品は観る者に力強く、訴えかけている。 オープニングで、今の食品がどれほど化学汚染に汚され、それを食べる人類の多くが身体を病んでいっていることを訴えたあと、カメラは南フランスの小さな村へと入る...
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