骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2012-09-21 23:57


パナヒ監督は自宅軟禁の状況を映像に収めることが未来に繋がると信じて行動する

奪われた「映画」という媒体を使った表現を渇望する過程を描く『これは映画ではない』クロスレビュー
パナヒ監督は自宅軟禁の状況を映像に収めることが未来に繋がると信じて行動する
『これは映画ではない』より (c)Jafar Panahi and Mojtaba Mirtamasb

映画とは監督のイメージする物語をスタッフ、俳優が一丸となって作り上げていくものだとすれば、この作品の主人公であるイランのパナヒ監督の苦悩というのは想像に難くない。反体制的な活動によって20年間の映画製作禁止、出国禁止、マスコミとの接触禁止、そして6年間の懲役刑を申し渡された監督は、テヘランのアパートメントに軟禁されている。とはいえ、「自宅軟禁」という言葉のイメージとはかなりかけ離れた風景がそこには登場する。広々とした居住空間、巨大なTVモニター、そこで飼われているイグアナ、そこに主夫のように暮らすパナヒ監督の所帯じみた姿からは、映画製作ができないことの切迫感は感じられない。

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『これは映画ではない』より (c)Jafar Panahi and Mojtaba Mirtamasb

しかし、「完成させるはずだった映画」について監督が自ら語りだすとき、ゴージャスなカーペットが敷き詰められたその部屋は、たちまち彼の頭の中にある風景へ姿を変える。「映画は監督のものである」という常套句の意味を、こんなかたちであっさりと見せられる驚くほかない。窓の外に見える光景、テレビに映し出されるニュース、突然訪れる訪問者。すべてが日常を捉えただけにもかかわらず、結果的に彼がいかに外部と接触をとり外の世界と繋がるか、というスリリングな脱出劇の要素も持ちあわせている点に、パナヒ監督のエンターテイメント精神も多分に感じられ興味深い。パナヒ監督の「どんな状況下でも映画を作ってみせる」という反骨精神そしてユーモアを感じてやまない作品だ。

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『これは映画ではない』より (c)Jafar Panahi and Mojtaba Mirtamasb




映画『これは映画ではない』
9月22日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

監督:ジャファール・パナヒ、モジタバ・ミルタマスブ
配給:ムヴィオラ
英語題:This is not a film ペルシャ語題:In Film Nist
2011年/イラン/75分
(c)Jafar Panahi and Mojtaba Mirtamasb
公式サイト:http://eigadewanai.com/




▼『これは映画ではない』予告編



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