2013-09-06

国家に反逆する映画『わたしはロランス』 このエントリーを含むはてなブックマーク 

あすは、『わたしはロランス』の公開初日だ。

最初に映画を観たのは、昨年のカンヌ国際映画祭。
ある視点部門に出品されていて、2時間40分という長さはチェック済みでスクリーニングにいった。

見始めて、一気に物語に引き込まれあっというまにエンディングだった。
もっとこの映画に浸っていたい、2時間40分、短いよ。

映像やファッションのヴィジュアルと音楽がすべて計算されていて、しかもそれがエモーショナルに絡み合い、登場人物の感情や思考を言葉ではなく、ヴィジュアルと音楽で物語っていくという潔さぎよい演出にまいった!

絵がかっこいいだけの映画ではない。ちゃんと登場人物が映画の中で息づき心を揺らして生きている、その物語を演技や台詞だけではなく、画面に見えるすべてとスピーカーから聞こえてくるすべてで表現している。

あとで知ったが計算され尽くした演出プランに驚く。後半、ロランスの髪がバサバサになって見えるのは、女性になるためにホルモン接種すると髪の毛が実際バサバサになるというリサーチに基づくスタイリングらしい。

配給したいと思った。

このときは一人で観たので、宣伝プロデューサーの露無さんの意見を聞こうと思い、次の上映を観てもらう事に。僕は2回目のスクリーニング。

音楽シーンになると爆音上映になる。
あきらかに普通の映画と音楽のミックスのバランスが違う。

劇場が唸っている。 僕の感情も震える!

この作品は劇場の音でぜひ観てほしい。明日は上映前にシネマカリテで音量をチェックし通常より大きくしてもらおう。

彼女もこの作品の凄さを理解してくれ、買い付ける事に。

セールス・エージェントのMK2にのカンヌのオフィスに行き、オファーをして、ディールメモにサイン。

後で聞いた話だが、他にも日本の配給会社が興味をもっていたらしく、その会社は短くしてくれたら配給したいというオファーだったらしい。セールスのMK2は「このままの長さで配給したいところがあるのよ」ということで、アップリンクが契約できた。

邦題をどうしよう。
原題『Lourance Anyways』のままだと「ロランスとでも」、いや「ロランス・エニウェイズ」そのままでもいいか。

女になると恋人に告白したロランスが10年かけて、映画の最後では、女性の格好でロランスになっている。そのりりしさを讃えたい。ということで『わたしはロランス』というタイトルを思いつく。

素材の取り寄せ、字幕の作成となんだかんだで年を越し、今年の6月のフランス映画祭で上映する事が決まった。ドラン監督の招聘を試みたが、新作のポスプロ中という事で、かなわず。その作品は『Tomat Farm』というタイトルで今行われているベネチア映画祭のコンペで上映されている。

代わりにという訳ではないが、フランス映画祭の団長としてナタリー・バイさんが来日。彼女はいくつものインタビューでドラン監督の天才ぶりを語っていた。決してお世辞ではなく、トリーフォー、ゴダールらと仕事をしてきた彼女の言葉と思うと、本当に新しい才能との出会いを喜び讃えていた。

買い付けたときからひとつのキャッチコピーを考えていて、それを変更せずに使った。

「これはとても"スペシャル"な愛の物語」

いろんな意味でホントにスペシャルな物語であり、映画だ。

寺山修司はなにかのエッセイで、「最も人を侮蔑する言葉は"普通”だ」といっていた。

「あなた"普通”だね」  「フツウ!」

なんと、軽蔑的な言葉だろうか。

普通の恋愛になんかに憧れてもしょうがない、スペシャルな恋愛をしないと生きている意味がない。とこの映画を観ると思う。

でも、きっと誰にとっても恋愛中は、当事者は"普通"ではなく"スペシャル"なものだろう。

試写を始めた。
この"スペシャル”な恋愛がエキセントリックすぎて、僕と同じように感じてくれない人もいた。
ものすごこぐ気にってくれた人もいた。

僕は、『わたしはロランス』という映画に恋をした。なぜならこの映画はとても普通じゃなく、変で、スペシャルで美しいから。
この映画を気に入るかどうかは、この映画と恋愛できるかどうかが鍵だと思う。

こんな相手と2時間40分の恋愛の旅に出る事のできる幸せ。

こむつかしい事を考えると、国家は結婚を強いる。
国の政策の大半は子供がいる家族を一単位としている。なにより浮気を罰する法律が存在するなんて。

好きな人を好きななる事、恋愛を国家は恐れている。

とすれば『わたしはロランス』は圧倒的に国家に反逆している映画だ。
なぜなら、とてもスペシャルな愛の物語だから。

ぜひ、明日7日から新宿シネマカリテで公開ですので、『わたしはロランス』という映画に恋をしてほしい。

1回目の上映を見届けて、僕はトロント映画祭に、ドランの新作を観に行ってきます。

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浅井 隆

ゲストブロガー

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