奇しくも本年5月9日に逝去したヴィダル・サスーン。本作を観たならば、撮影当時82歳で実にかくしゃくと歩き、そしてセクシーでありスタイリッシュでもあり、今もなお世界中にその名をとどろかせている氏が亡くなったとは思えないに違いない。映画の中でも、それほど氏の存在は生き生きとしており、とめどなく次の構想を話す姿はまるで修行を始めた20代の青年のようだ。
不遇な少年時代を跳ね返したかのような成功。その裏側にあったのは彼のたゆまぬ努力であった。
シンデレラ・ボーイを地で行ったヴィダル・サスーン。常に時代に何が必要か、そして自分は何をなすべきか。そのことだけをひたすら考え続けた若き彼の努力の結果は、後世に残るであろう「ファイブ・ポイント・カット」を生み出し、世界中に彼の名を知らしめたことだった。元々の才能は努力によって浮かび上がり、不動のものとなっていった。
映像で語られる告白の中には成功話もあるが、身を切られるような辛さも彼はさらけ出してくれた。離婚や近親者の死といった大きなショックを受ける出来事があったとしてもなお彼は進み続けた。どんなに辛いことがあろうとも決して道を逸れずに、笑顔を絶やさず前に向かって歩き続けた人生。それがヴィダル・サスーンそのものであり、またこの映画に好感を持てる要素となっている。
冒頭とラストのすっきりとした立ち姿に隙はなく、エンドロールの細部にまでこだわった作り。最後までヴィダル・サスーンらしさを貫いた作品、ファッションに興味のある方ならどこかで大きくうなずく場面があることだろう。
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