2009-04-09

人権は守られてきているのか このエントリーを含むはてなブックマーク 

◎映画「ミルク」のレビュー

 今まで同性愛者を描いたアメリカ映画はさまざまあったが、この作品ほどゲイや同性愛者の存在と人権を、声高らかに認めた内容のものはなかったかもしれない。その意味では、最近にはない、画期的な作品だと思う。
 しかし、同性愛者の価値観を高めただけの内容ならば、アカデミー賞候補にあがるほど共感を呼んでいない。そこがこの作品の重要なところだ。主人公ミルクは、同性愛者だけでなく、黒人など多くの虐げられている者たちへのメッセージを発信していたからこそ、政治の世界で支持を得られていた。そのことを、監督ガス・ヴァン・サントは事実を時間軸とおりに積み上げながら、丹念にきめ細かく、そしてドラマチックなものを排除した淡々とした演出で、主人公ミルクの人間味あふれる姿を描いて見せている。
 そして何より、観る者が作品内容に共感をえるところは、主人公の前向きさ、だ。「希望を与えなくては」と言いながら、自分の信じる道を歩もうとする主人公の姿は、信じられるものが少なくなってきた我々には、とても示唆にとんだように感じる。どんなことがあっても前を向く、希望がなければ人生は生きる価値などない、と言うミルクの姿を、それまでの後ろ向きの生き方をしていた者が観ると、前へ向いて生きる力をもらえるような気分になるだろうと思えるくらいに元気づけられる。今、この作品が公開されるのは、とても重要なことのように感じる。

◎ドキュメンタリー映画「ハーヴェイ・ミルク」のレビュー

 映画「ミルク」は、この作品がなかったら生まれてなかったかもしれない。そう感じるくらいに、「ミルク」以上に「ハーヴェイ・ミルク」は、同性愛者の希望の星となったサンフランシスコ市制委員ミルクの業績を丹念に描いている。それは、世界的ドキュメンタリー作家ロバート・エプスタインならではの語り口だからこそできることなのだろう。エプスタインはの人物ドキュメンタリーは、関わった人々へのインタビューを細かく積み重ねて、しかも視点がぶれないことで知られているが、この「ハーヴェイ・ミルク」でも同性愛者たちや移民者たちなどのアメリカのマイノリティーたちにたった目線を大事にしている。
 それを強く感じさせるのは、ミルクが暗殺された以降、つまり映画「ミルク」ではあまり語られていない部分だ。暗殺した犯人の裁判が、いかにもミルクとは反対側の立場のものたちばかりで裁かれ、暗殺者に有利に展開したことを、エプスタインは批判的な目でとらえている。そこには、ミルクが懸命に努力してきた「人権」を守ることができているのか、という国家への疑問があるからだ。
 その意味では、現在のアメリカ、そして日本の「人権」が守られているのかどうか、この「ミルク」と「ハーヴェイ・ミルク」の両方を観ると心配にもなってくる。アメリカは前政権がキリスト教一派から支援されていたこともあって、同性愛者たちへの理解が薄かったらしい。一方、「ハーヴェイ・ミルク」の裁判の様子を見ると、日本のこれからの裁判員制度で果たして、犯罪の被疑者と被害者の人権が守られるのかどうか、とても不安にも思えてくる。我々は、この両作からもう一度、「人権」についてキチンと考える力をもらうべきではないだろうか。

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山中英寛

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