先日の黒沢清監督とのトークの模様の全録がアップされましたので、よかったらどうぞ。
<「低予算でいいから一生に一度はこんな映画をつくってみたい」
黒沢清×わたなべりんたろう『サーチャーズ2.0』トークイベントvol.2>
http://www.webdice.jp/dice/detail/1277/
<抜粋>
わたなべ:黒沢さんの現場では映画の話はタブーなんですよね。
黒沢:そうですね。他の人の映画の話は基本的にはしてはいけないという雰囲気でつくっています。時々モラルをわきまえていない若者がいて、ホラー映画を撮っていて「どうやってこのカット撮ろうかなぁ」と話していると、助監督のフォースぐらいの人が寄ってきて、「黒沢さん、ゴダールの新作観ました?」とかって。「お前ここで言うんじゃないよ!いま俺が何をやっているかわかるだろう(笑)」と。たまにそういう人がいると、冷たい目で見られますね。
わたなべ:ジョン・カーペンターは映画の脚本を書いているときと撮影のときは、絶対人の映画は観ないと発言していますね。
黒沢:それはよくわかります。僕も脚本を書いているときから観ないようにしてます。それでも苦し紛れに、参考になるかと思って観てしまったり、どうしてもそのときに観たくなったものを観にいくと露骨に影響受けてしまいます。後でみるとそこだけ浮いてしまったように、観たものに影響受けてるなっていうのがわかりますね。
わたなべ:ピーター・ジャクソンは撮影中に映画を観るタイプの監督で、撮影中に気持ちが沈んできたら大好きな映画を観て「オレは映画が好きだったんだ!」との気持ちを再確認するそうです。「ロード・オブ・ザ・リング」の撮影の終盤で疲れきったときには、「グッドフェローズ」などを見直したそうです。
昨年公開された黒沢さんの『トウキョウソナタ』はビックリするような映画でしたね。何か影響を受けている作品はあるのでしょうか?
黒沢:『トウキョウソナタ』は一昨年の12月に撮ったんですけど、準備している10月くらいに、よせばいいのにクエンティン・タランティーノの『デス・プルーフinグラインドハウス』を観にいったんです。誰にもわからないと思いますけど、『トウキョウソナタ』のいくつかのカットは『デス・プルーフ~』そっくりっていう。どうやって『デス・プルーフ~』でなくせるか苦労したくらいで。カメラマンにも「デス・プルーフやりたいです。他の人には絶対言わないでください」って言ったんですよ。で、カメラマンもこっそり『デス・プルーフ~』を観にいって、「わかりました。秘密にしときます」って(笑)。いくつかのシーンはやってるんですよね。
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わたなべ:黒沢さんは、先日出た「09年の展望」のような特集の『AERA』で現在日本映画は不況で、変なビジネス的な面が壊れてすごく良くなるんじゃないかと書かれていましたね。ただ、救われるのは、スタッフも俳優も映画が好きでやっている人たちがいっぱいいる、ということでしたが。
黒沢:それはそうですね。映画の製作現場にいると実感しますね。映画が好きっていうのは、マニアックにいろんな名前を知ってるとか、ただ闇雲にたくさん映画を観ているということとは少し違っていて、スタッフも俳優も自分が携わっているものが何かかけがえのない、芸術や文化だといった誇らしいものなんだという意識に支えられている。だからほんとうに安い賃金で、皆さん労を惜しまず働いてくれる。お金儲けというのはほとんど考えていない。
わたなべ:先日、山田太一さんがインタビューで同じこと言っていました。助監督などのスタッフはほんとに安い賃金でやっていて、この人たちがもっと救われるようにしなければならないと。こちらも助監督の経験がありますが、まさにそうですよね、システムとして成立しないところがあるので。
黒沢:スタッフはもちろんですけど、特に俳優が安いですよね。世界基準からみると、日本のトップスターのギャラはかなり安い。あまり迂闊なことをいうのもなんですけど、伝え聞くところによると、たとえば韓国のスターはギャラがすごく高いらしい。実際いくら払われているのかは知りませんけど、噂でトップスターになると映画1本のギャラが2億円とか。
わたなべ:全体の何パーセントくらいあるんですかね。
黒沢:一方でスタッフはすごく安いらしい。売れっ子の監督だったらすごいたくさんギャラをとるんでしょうね。だから、日本より全然制作費が高いんですよ。日本のトップスターは作品にもよりますけど、大体10分の1ですよね。もっと低いかもしれない。映画で高いギャラをもってくのは日本では成立しませんよ。僕がつくっている映画の制作費は、全体で1億円、あって1億5千万円ですから。僕らは安くていいんですけど、有名スターは世界基準でみると格段に低い額で出演してくれるっていう。