映画『希望の国』より (c) The Land of Hope Film Partners
20XX年と物語の設定上は近未来であるにも関わらず、この映画で描かれている恐怖がいまこの国に実際起こっていることなのだという切迫感は、観終わってからもズシリと響いている。外連味を抑え、とある町に暮らすふたつの家族に訪れる運命にじっくりと焦点を絞ることで、いままでの園監督作品でも描かれていた家族をめぐる問題が浮かび上がってくる。いっぱしの口をききながらまだ大人になりきれない夫と、子どもを身ごもったことにより、放射能に対しての恐怖を強める妻。そして認知症をわずらう妻を見守りながら酪農に精を出す初老の男。それぞれが原発事故をきっかけに、自らの生き方を問い直される。『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』『ヒミズ』でエディプス・コンプレックスを大胆にストーリーのなかに組み込んできた園監督は、逃げ場のなくなった地で向き合うことを余儀なくされる父と子の関係性を、よりシンプルに、そして痛切に捉えている。
映画『希望の国』より (c) The Land of Hope Film Partners
これまでセンセーショナルな描写を含め、疾走感溢れる絵で人物を追いかけることの多かった園監督が、重厚と言っていいほど落ち着いたカメラで、震災後の日本の様子とそこで生活する人間を収めている。神楽坂恵、村上淳、清水優、梶原ひかりなど、これまで園作品常連の俳優陣の抑制された、しかし確かな表現力に加え、老夫婦を演じる夏八木勲と大谷直子の骨太な存在感が素晴らしい。全編を通し、どぎつい表現は皆無だが、若い夫婦のやりとりで訪れるちょっとしたユーモア、そして荒廃した風景に不意に訪れるファンタジックなイメージも忘れられない。真っ向から日本の風景を撮ることを目指した園監督の新境地といえる作品だと思う。
映画『希望の国』より (c) The Land of Hope Film Partners
映画『希望の国』
10月20日(土)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
東日本大震災から数年後の日本のとある町。小野家と鈴木家は隣り合い、つつましくも幸せに暮らしていた。ある日、大地震が発生、それにつづく原発事故が、生活を一変させる。 原発から半径20km圏内が警戒区域に指定され、強制的に家を追われる鈴木家と、道路ひとつ隔てただけで避難区域外となる小野家。 そんな中、小野家の息子・洋一の妻・いずみが妊娠、子を守りたい一心から、放射能への恐怖を募らせていく。
脚本・監督:園 子温
出演:夏八木勲、大谷直子、村上 淳、神楽坂恵、清水 優、梶原ひかり、筒井真理子、でんでん
撮影:御木茂則
照明:松隈信一
美術:松塚隆史
装飾:石毛 朗
録音:小宮 元
整音:深田 晃
編集:伊藤潤一
プロデューサー:定井勇二 國實瑞恵 汐巻裕子
ラインプロデューサー:鈴木 剛
共同プロデューサー:Adam Torel James Liu
製作:『希望の国』製作委員会
共同製作:Third Window Films
Joint Entertainment International
配給:ビターズ・エンド
宣伝:メゾン
2012年/日本=イギリス=台湾/133分/カラー/ヴィスタ
公式サイト:http://www.kibounokuni.jp
▼『希望の国』予告編