骰子の眼

cinema

東京都 中央区

2012-06-29 16:30


愛さえあれば残酷な現実は起こらない、という綺麗ごとを全否定する映画

ティルダ・スウィントンとエズミ・ミラー扮する母子の関係の行方は?『少年は残酷な弓を射る』クロスレビュー
愛さえあれば残酷な現実は起こらない、という綺麗ごとを全否定する映画
映画『少年は残酷な弓を射る』より (c) UK Film Council / BBC / Independent Film Productions 2010

『We Need to Talk About Kevin』というオリジナルのタイトルにもあるように、ティルダ・スウィントン演じる作家エヴァが、息子ケヴィンを理解したいと感じつつも、彼の心の奥の闇を推し計ることができない苦悩が全編のトーンとして流れている。随所にエヴァの心象風景を鮮やかなイメージでフラッシュバックさせながら、物語は「起こってしまった事件」の後から時間軸を移動しつつ進んでいく。エヴァの回想とともに、観客はケヴィンの悪意の真相は何なのか、という迷路に迷い込んでいく。

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映画『少年は残酷な弓を射る』より (c) UK Film Council / BBC / Independent Film Productions 2010

ジョン・C・ライリーの役どころである夫のお気楽ぶりもエヴァの心労を際立たせ、観る者の不安を掻き立てる。そしてタイトルロール、ケヴィンを演じるエズラ・ミラーの容赦ない悪童ぶりは、安易な感情移入を許さない強度を持っている。リン・ラムジー監督らしいスタイリッシュな映像が散りばめられているが、決して雰囲気優先ではなく、主人公の憔悴しきった心の刺々しさを確かに表現しており、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』に続いてレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドの音楽も不穏なムードを効果的に高めている。真の憎悪とは、ということをそのサスペンスのなかに深い残響として残す作品だ。

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映画『少年は残酷な弓を射る』より (c) UK Film Council / BBC / Independent Film Productions 2010



映画『少年は残酷な弓を射る』
6月30日(土)TOHOシネマズシャンテにて公開

自由奔放に生きてきた作家のエヴァはキャリアの途中で子供を授かった。ケヴィンと名付けられたその息子は、なぜか幼い頃から、母親であるエヴァにだけ反抗を繰り返し、心を開こうとしない。やがてケヴィンは、美しく、賢い、完璧な息子へと成長する。しかしその裏で、母への反抗心は少しも治まることはなかった。そして悪魔のような息子は、遂にエヴァの全てを破壊するような事件を起こす……。

監督:リン・ラムジー
出演:ティルダ・スウィントン、ジョン・C・ライリー、エズラ・ミラー
脚本:リン・ラムジー&ローリー・スチュワート・キニア
原作:ライオネル・シュライバー
製作:リュック・ローグ、ジェニファー・フォックス、ロバート・サレルノ
製作総指揮:スティーヴン・ソダーバーグ、クリスティーン・ランガン、 ポーラ・アルフォン、クリストファー・フィッグ、ロバート・ホワイトハウス、 マイケル・ロビンソン、アンドリュー・オル、ノーマン・メリー、リサ・ランバート リン・ラムジー、ティルダ・スウィントン
撮影:シーマス・マッガーヴェイ
編集:ジョー・ビニ
作曲:ジョニー・グリーンウッド
提供:クロックワークス、東宝
配給:クロックワークス
2011年/イギリス/35ミリ/カラー/アメリカン・ビスタ/Dolby SRD/112分

公式サイト:http://shonen-yumi.com




▼『少年は残酷な弓を射る』予告編



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