2012-06-09

『少年は残酷な弓を射る』クロスレビュー:悪意と希望 このエントリーを含むはてなブックマーク 

 とにかくエヴァ役のティルダ・スウィントンの演技が圧巻です。息子(ケヴィン)の起こした大惨事のために近隣住民の悪意の眼差しに絶えず曝され続けている彼女か感じている圧迫感と緊張感が知らず知らずこちらにまで伝染してきます。事件に憤った何者かがエヴァの家にぶちまけた赤いペンキを電動やすりでこそげ落とすシーンでは、エヴァの顔にかかったペンキの破片がまるで返り血の様に見え、彼女が息子の犯した過ちとは無縁でいられないことを印象付けます。
 ケヴィンのエヴァに対する憎悪は本物です。ケヴィンとエヴァの関係に無関心は無く、そこにあるのは強い感情です。この強さゆえに、母親からの視線を独占するために凶行に至ったケヴィンの憎悪はその強度を維持したまま全く別の感情に転化できるように思えました。憎悪というのは愛情の対極にある感情というよりは、双子のような近い関係にあるものだと思います。ラストシーンは、ケヴィンのエヴァに対する憎しみが初めて揺らぎを見せた瞬間だと解釈しました。この強烈な感情が揺らいでどの方向に倒れるのかは映画で語られることはありませんが、僕は救いを見出そうと思います。
 画面に赤が溢れている演出も緊張感を感じさせて素晴らしかったです。特に冒頭、エヴァがスペインのトマト祭でトマトにまみれて群衆にもみくちゃにされるシーンは、映画を観終わってから思い起こすととてもグロテスクで、忘れることのできないシーンになりそうです。

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kazikaziyama

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