骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2010-12-16 17:43


[CINEMA]「バスキアがこの作品を見る事があったら、映画そのものが音楽的になっている事を喜んだに違いない」『バスキアのすべて』クロスレビュー

周囲の人の証言やバスキアの言葉から見えてくるのは、「スター」としての自我の持ちようのなさと葛藤に他ならない。
[CINEMA]「バスキアがこの作品を見る事があったら、映画そのものが音楽的になっている事を喜んだに違いない」『バスキアのすべて』クロスレビュー
All Jean-Michel Basquiat works (C) Estate of Jean-Michel Basquiat .Used by Permission. Licensed by Artester, New York

NYアートシーンの問題児というイメージを経て、近年では20世紀の最も重要な現代アーティストとしての地位を確固たるものとするジャン=ミシェル・バスキア。彼の絵の魅力はもちろん、破天荒なセレブとしてのセンセーショナルな部分のみ取り沙汰されることの多かった彼の、表層的なイメージをはぎとった部分を垣間見ることができるドキュメンタリーだ。まるで楽器を奏でるようにキャンバスに絵の具をたたきつける彼の姿。そして、元恋人をはじめ周囲の友人や関係者たちの証言から浮かび上がってくるのは、ピカソの『ゲルニカ』とラヴェルの『ボレロ』、そしてビバップをこよなく愛し、少年のような笑顔と人なつっこさを持つ男であり、美術界の頂点に立ちたいという限りない野心を抱くひとりのアーティストであり、死の直前までアイデンティティを求め続けた孤独な人間の姿である。

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All Jean-Michel Basquiat works (C) Estate of Jean-Michel Basquiat .Used by Permission. Licensed by Artester, New York

監督はビースティ・ボーイズのマイク・Dの妻であり、黒人ラップグループの栄枯盛衰を描いた『CB4』(1993年)やソニック・ユースのPVを手がけるなど、ヒップホップ・カルチャーやオルタネイティブ・ミュージックに近しいタムラ・デイビス。監督本人が死の数年前に撮影したバスキアのインタビュー映像を元に、ジム・ジャームッシュの処女作『パーマネント・バケーション』、ヒップホップ・ムービーの金字塔『ワイルド・スタイル』など、舞台となるニューヨークにちなんだ映画のフッテージや当時の街の様子とともに、ジャズやエレクトロなど80年代の音楽が商業主義に陥る直前の荒々しいサウンドが巧みにちりばめられている。後期のアンディ・ウォーホルとの蜜月のあとの落胆や、ドラッグの問題など、華やかなスターライフの陰にある彼の〈弱さ〉もきちんと描いている点が、私たちのバスキアの作品への視座を変えてくれることだろう。

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All Jean-Michel Basquiat works (C) Estate of Jean-Michel Basquiat .Used by Permission. Licensed by Artester, New York


映画『バスキアのすべて』
2010年12月18日(土)より、渋谷シネマライズにてロードショー! 全国順次公開

監督&製作:タムラ・デイビス
製作総指揮:マーヤ・ホフマン
撮影:タムラ・デイビス、デビット・コー、ハリー・ゲラー
出演:ジャン=ミシェル・バスキア、ジュリアン・シュナーベル、ラリー・ガゴシアン、ブルーノ・ビショップベルガー、トニー・シャフラジ、ファブ・5・フレディ、ジェフリー・ダイチ、グレン・オブライアン、マリ・ポール、カイ・エリック、ニコラス・タイラー、マイケル・ホールマン、ディエゴ・コルテス、アニナ・ノセイ、スーザン・マロック、レン・リチャード、ケニー・シャーフ、サーストン・ムーア、ネルソン・ジョージ、エリカ・ベル etc
2010年/アメリカ/93分/デジタル/白黒&カラー/英語
配給:CJ Entertainment Japan
公式サイト


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