骰子の眼

cinema

東京都 中央区

2010-12-03 18:36


[CINEMA]「自分の居場所を探している人に希望を与え、既に見つけている人にはその有り難さを再確認させる」『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』クロスレビュー

主演の浅野忠信、永作博美に加えて、印象的なのはアルコール中毒で入院した病院にいる入院仲間の人間くささだ。
[CINEMA]「自分の居場所を探している人に希望を与え、既に見つけている人にはその有り難さを再確認させる」『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』クロスレビュー
(C)2010シグロ/バップ/ビターズ・エンド

戦場カメラマン鴨志田穣の自伝的小説をもとに、東 陽一監督はアルコール依存症と闘いながら、離婚していた妻そして子供とのふれあいを再び取り戻そうとする男の姿を、決して感傷的すぎることなく描く。原作にあるユーモラスかつ味わいのある筆致を損なうことなく、映画として新たな世界を構築することに成功している。今作のなかで、アルコール依存症が治癒の難しい病気である理由がいくつか語られる。依存により突然自身のなかの悪人が顔を覗かせるような突発的な行動をとってしまうこと、禁断症状や関連疾患の精神的な圧迫、そして閉鎖されたアルコール病連での生活の様子などを淡々と描写することで、アルコール依存症が専門的な治療が必要であること、周囲の、とりわけ家族の理解と協力が必要であることを確かに伝える。

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(C)2010シグロ/バップ/ビターズ・エンド

今作は同時に、「ほかの病気と決定的に違う一番の特徴……それは、ほかの病気と違い、世の中の誰もほんとうには同情してくれないこと」と元妻の由紀に語る医者の言葉に象徴されるように、病気を持つ者に対する周囲の人々の偏見をも暴き出す。人間の根っこにある存在の不安定さを演じきる主演の浅野忠信のたたずまい、そしてあっけらんとしながらもその奥に元夫への尽きせぬ愛情を秘めた永作博美の演技の秀逸なアンサンブル。それは、アルコール依存症のみならず、他者に対する想像力の欠如を静かにいさめ、知らず知らずのうちに間違った固定観念を持ってしまう我々の視座を確実に変えるだろう。

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(C)2010シグロ/バップ/ビターズ・エンド


『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』
12月4日(土)シネスイッチ銀座テアトル新宿他全国ロードショー!!

監督・脚本・編集:東 陽一
原作:鴨志田 穣『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』(スターツ出版刊)
主題歌:忌野清志郎「誇り高く生きよう」(NAYUTAWAVE RECORDS, A UNIVERSAL MUSIC COMPANY)
出演:浅野忠信、永作博美、市川実日子、利重剛、藤岡洋介(子役)、森くれあ(子役)、高田聖子、柊瑠美/
甲本雅裕、渡辺真起子、堀部圭亮、西尾まり、大久保鷹、滝藤賢一、志賀廣太郎/
北見敏之、螢雪次朗、光石研、香山美子
2010年/カラー/35ミリ/ビスタサイズ/ドルビーデジタル/118分
配給:ビターズ・エンド/シグロ
公式ホームページ


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