骰子の眼

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東京都 渋谷区

2010-06-30 16:00


[BOOK]「サウンドアートを知ることで、日常の音を発見したり感動したりする機会が生まれる」『SOUND ART』クロスレビュー

ポストパンク、ノイズ、現代音楽、ミュージック・コンクレートなど豊富な事例と図版により音の存在する場所を解明する
[BOOK]「サウンドアートを知ることで、日常の音を発見したり感動したりする機会が生まれる」『SOUND ART』クロスレビュー

野心的なギタリストでありながら、ニューヨークを拠点に音楽、アート、映画を考察する評論家としての活動を続けてきたアラン・リクトは、『SOUND ART──音楽の向こう側、耳と目の間』において様々な事象を参照しながら、サウンドアートとはなにかという初歩的な疑問から、インスタレーションやサウンドアートの未来についてまでを丁寧に紐解いていく。マーク・ロスコと、数々のアーティストが用いたドラム・ブレイクのサンプリングで知られるレッド・ツェッペリン「レヴィー・ブレイク」におけるサイト・スペシフィシティ(特定の場所性)を連続させていく流れなどは極めて痛快で、つまりその点でいえば、サウンドアートはヒップホップやブレイクビーツに至るまで影響を与えているということなのだ(!)。しかもロック・ミュージックの評論でありがちな感情論/精神論ではなく、すべての音を等しく感じ鳴らそうとする彼の視点は、風変わりで取っつきづらいイメージのあるサウンドアートという言葉を平易に解説することに成功している。

こうした表現ができるのも、彼がストリートの音楽に愛情を持ち、刻々と路上で変化していく音の変容について寛大かつ辛辣に捉えているからであろう。一聴して煩雑に感じられる自然の音のなかに秩序を見いだすこと、整理された音の塊をインプロヴィゼーションで崩していくことを繰り返し、本書は次第に音の本質へと向かっていく。この論考を読み進めていくことこそが音を純粋に楽しむことへの足がかりとなり、アートと音楽、そして環境の間で取り交わされる様々な試みがビビッドに感じられることになるだろう。そこでは演奏すること、聴くこと、音のある場所を生み出すことの境界があいまいになる。そして、ノイズでもメロディでもリズムでも、録音物でも生の演奏でも、サウンドへの好奇心と想像力こそが新しい音への視座を生み出すということを、この本は伝えている。後半に収録されたアーティスト・バイオグラフィも行き届いており、著者への深い理解に満ちたジム・オルークによるまえがき、そして恩田晃による日本語版特別寄稿もリクト氏の論考を的確に補完している。


アラン・リクト プロフィール

1968年ニュージャージー生まれ。音楽家/ギタリスト。90年代から音楽活動を開始。Run On、Love Childなどのインディ・ロック・バンドを経て、デレク・ベイリー、ジョン・ゾーン、リース・チャタム、マイケル・スノウ、ローレン・コナーズら幅広いアーティストと共同作業と続けてきた。また、ニューヨークの前衛音楽シーンの中心的なクラブ〈Tonic〉で2000年から2007年の閉鎖までブッキング担当も務めた。ライター、ジャーナリストでもあり、音楽、映像、アートに関して『WIRE』『Art Forum』『Modern Painters』ほか様々な雑誌に寄稿。著書に『An Emotional Memoir of Martha Quinn』(Drag City Press、2003年)。近年のプロジェクトに、音楽家・恩田晃とのコラボレーションや、スタン・ブラッケージなどの実験映画にあわせて即興演奏するリー・ラナルドとのText of Lightなどがある。

木幡和枝 プロフィール

東京藝術大学先端芸術表現科教授。訳書にデレク・ベイリー『インプロヴィゼーション 即興演奏の彼方へ』(共訳、工作舎)、ローリー・アンダーソン『時間の記録』(NTT出版)、スーザン・ソンタグ『この時代に想う テロへの眼差し』『良心の領界』『同じ時のなかで』(NTT出版)など。ベン・ワトソン『デレク・ベイリーとフリー・インプロヴィゼーションの物語』(仮題、工作舎)とスーザン・ソンタグの日記『Reborn』(河出書房新社)を2010年中に訳出刊行予定。

荏開津 広 プロフィール

ライター。東京藝術大学、多摩美術大学非常勤講師。著書『人々の音楽のために』(EDITION OK FRED)、『ロックピープル101』(共著、新書館)。訳書『ヤーディ』(トランスワールドジャパン)。エッセイ「Attempt to Reconfigure "Post Graffiti"」。

西原 尚 プロフィール

東京藝術大学美術研究科先端芸術表現専攻、修士課程在籍


アラン・リクト
『SOUND ART──
音楽の向こう側、耳と目の間』

まえがき:ジム・オルーク
訳:荏開津 広、西原 尚
監訳:木幡和枝
日本語版特別寄稿:恩田晃
装幀:前田晃伸
ISBN:978-4-8459-0942-1
定価:本体価格2,500円+税
仕様:四六判変形/352ページ
発行:フィルムアート社
発売中



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レビュー(2)


  • 浅水泰匡さんのレビュー   2010-06-14 18:38

    サウンドアート 網膜と鼓膜の交感

    前衛ギタリストであるアラン・リクトの脳内に、毛細血管の如く多岐に渡って張り巡らされた、精緻で雄大な「サウンドアートの地図」を克明に記したものが本書である。明確な定義がなく、未だ多くに膾炙されていない「サウンドアート」という不透明かつ不思議なシニフィ...  続きを読む

  • atyatyさんのレビュー   2010-06-21 03:19

    共生する音の彼方

    「サウンドアート」という言葉を知ったのはここ2年くらいのだと思う。単に僕個人がそういったアート畑の情報やワードに疎いだけかもしれない。この本にはサウンドアートの歴史や文脈といったものがきめ細かく書かれている。しかし読後も「サウンドアートって何?」と訊...  続きを読む

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