(C)2009 Paramount Vantage, a division of Paramount Pictures Corporation and Overture Films, LLC
思えば1989年の監督デビュー作『ロジャー&ミー』でGM(ゼネラル・モーターズ)の工場閉鎖やリストラに対し直談判を試み、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのニューヨークの証券取引所前で行われたゲリラライヴを収めたミュージックビデオ「スリープ・ナウ・イン・ザ・ファイアー」(1999年)を監督したマイケル・ムーア監督にとっては、因縁とも使命とも言えるテーマなのであろう。その『ロジャー&ミー』さながらに09年6月に経営破綻をしたGMの会長に意気盛んに会見を試みる姿は〈アポなし取材〉の真面目といったところ。しかしGMの従業員だった父と廃墟と化した工場を訪ねるシーン、少年時代を回想する場面での1950年代のアメリカ経済の隆盛と生活の豊かさを描くタッチなどには、皮肉やユーモアたっぷりに社会問題をばっさり斬っていくマイケル・ムーア節は控えめ。意外なほどセンチメンタルに、アメリカの黄金時代、そしてアメリカを信じ続けてきた自身が回想される。
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そうした要素もあってか、イギー・ポップがロックンロール・クラシックをカバーした「ルイ・ルイ」から威勢よく始まり、ウォール街にコーションテープを張りめぐらすといった派手なパフォーマンスもあるものの、これまでのマイケル・ムーア作品に比べると幾分地味に感じられるかもしれない。それは取りも直さず、彼がこれまで取り上げてきた銃社会や医療問題といったアメリカ社会からなかなかぬぐえない問題の根源が、企業や政治はもちろんのこと、資本主義というシステムそのものにあるというところに肉薄していこうとしているからなのだろう。彼は終盤でアメリカの独立宣言にまで遡り、愚直なまでに問題を探ろうとする。庶民を苦しめる金融戦争の元凶について、母国を心から愛する敬虔深いひとりのアメリカ人からの意見として伝えようとしている点に、今作品の有効性はあるのではないだろうか。
『キャピタリズム~マネーは踊る~』
12月5日(土)よりTOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 梅田にて限定公開
2010年1月9日(土)より 全国拡大ロードショー
脚本・監督・製作:マイケル・ムーア
配給:ショウゲート
提供:ショウゲート、デイライト
2009年/アメリカ/カラー/120分
公式サイト