骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2009-12-05 10:00


「経済危機に対し庶民がどのように立ち上がっているかをきちんと捉えている」『キャピタリズム~マネーは踊る~』クロスレビュー

真骨頂のユーモアに加え、身近な日常のトピックによりグローバルな問題をじわじわと追い詰めていく
「経済危機に対し庶民がどのように立ち上がっているかをきちんと捉えている」『キャピタリズム~マネーは踊る~』クロスレビュー
(C)2009 Paramount Vantage, a division of Paramount Pictures Corporation and Overture Films, LLC

思えば1989年の監督デビュー作『ロジャー&ミー』でGM(ゼネラル・モーターズ)の工場閉鎖やリストラに対し直談判を試み、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのニューヨークの証券取引所前で行われたゲリラライヴを収めたミュージックビデオ「スリープ・ナウ・イン・ザ・ファイアー」(1999年)を監督したマイケル・ムーア監督にとっては、因縁とも使命とも言えるテーマなのであろう。その『ロジャー&ミー』さながらに09年6月に経営破綻をしたGMの会長に意気盛んに会見を試みる姿は〈アポなし取材〉の真面目といったところ。しかしGMの従業員だった父と廃墟と化した工場を訪ねるシーン、少年時代を回想する場面での1950年代のアメリカ経済の隆盛と生活の豊かさを描くタッチなどには、皮肉やユーモアたっぷりに社会問題をばっさり斬っていくマイケル・ムーア節は控えめ。意外なほどセンチメンタルに、アメリカの黄金時代、そしてアメリカを信じ続けてきた自身が回想される。

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(C)2009 Paramount Vantage, a division of Paramount Pictures Corporation and Overture Films, LLC

そうした要素もあってか、イギー・ポップがロックンロール・クラシックをカバーした「ルイ・ルイ」から威勢よく始まり、ウォール街にコーションテープを張りめぐらすといった派手なパフォーマンスもあるものの、これまでのマイケル・ムーア作品に比べると幾分地味に感じられるかもしれない。それは取りも直さず、彼がこれまで取り上げてきた銃社会や医療問題といったアメリカ社会からなかなかぬぐえない問題の根源が、企業や政治はもちろんのこと、資本主義というシステムそのものにあるというところに肉薄していこうとしているからなのだろう。彼は終盤でアメリカの独立宣言にまで遡り、愚直なまでに問題を探ろうとする。庶民を苦しめる金融戦争の元凶について、母国を心から愛する敬虔深いひとりのアメリカ人からの意見として伝えようとしている点に、今作品の有効性はあるのではないだろうか。


『キャピタリズム~マネーは踊る~』

12月5日(土)よりTOHOシネマズ シャンテTOHOシネマズ 梅田にて限定公開
2010年1月9日(土)より 全国拡大ロードショー

脚本・監督・製作:マイケル・ムーア
配給:ショウゲート
提供:ショウゲート、デイライト
2009年/アメリカ/カラー/120分
公式サイト


レビュー(9)


  • waseikobaさんのレビュー   2009-11-27 23:25

    あいかわらずムーア監督はスゴイ

     まず、初っぱなから取り立てやがなんと保安官という庶民の家の差し押さえシーンからです。  そして、なぜ、アメリカの社会がそうなったかをムーア監督が解説していきます。  その発端とは、「リーマンブラザーズにあり」が、かれの主張です。  アメリカの...  続きを読む

  • みかん星人さんのレビュー   2009-11-29 15:26

    今作の目玉は、意外にも、音楽だ!

    マイケルムーア監督の新作を観てきた。 ムーア監督の作品はほとんど映画館で観てきたけれど、 今回、いちばん印象に残るのは、音楽だったと思う。 冒頭から最後まで、素晴らしい選曲だった。 今度の標的は「資本主義」。 アメリカの銃社会問...  続きを読む

  • bigsea1986さんのレビュー   2009-12-02 10:52

    現代の『資本主義』を痛烈に皮肉る、でもある意味軽快な映画(笑)

     昨年の9月15日に起きたリーマン・ブラザーズの経営破綻は、世界金融危機の引き金となり、そして世界経済は大不況に陥った・・・住宅や職を失う人が続出する一方で、原因を作った投資銀行や保険会社たちが公的資金で救われてゆくことに憤りを覚えたマイケル・ムーア...  続きを読む

  • ぴつ太さんのレビュー   2009-12-02 18:22

    国家主導のサギをダンザイ

    する! いやはや、この国もダメだが、彼の国はもっと酷い。 辛い…というのは映画で告発されている内容。 映画は面白い。かなり。 マイケル・ムーアの作品をちゃんと観るのは初めて。 ドキュメンタリーなのにちゃんとエンターテイメント...  続きを読む

  • に~まんさんのレビュー   2009-12-02 22:50

    キャピタリズム~マネーは踊る~試写会

    資本主義ってそもそもなんだ? という疑問が投げかけられているが、映画を見ても解決はしませんでした。アメリカ国はやることなすこと極端。それに慣れているアメリカ人も極端。 日本人みたいに真面目とかコツコツとか勤勉とか、そういうの一切ない。ギブ...  続きを読む

  • 山中英寛さんのレビュー   2009-12-03 07:06

    ムーアさん、「ザ・コーポレーション」をもう一度見てね

    「華氏911」以来、マイケル・ムーアという人は大のブッシュ嫌いであり共和党嫌い、というのを声高に叫びたがることはわかってはいたが、この新作ではそれがさらにストレートに表現してみせている。レーガンやブッシュがやってきた経済政策がここにきて一気に崩壊し、...  続きを読む

  • ぬまさんのレビュー   2009-12-03 23:34

    資本主義は「勝ち組」だったのか。

    ベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が資本主義の一人勝ちで終わったかにみえた。 しかし、本当に資本主義は一人勝ちしたのだろうか。実は、資本主義も失敗しているのではないか? 共産主義や社会主義の実験は失敗し、それに対して資本主義は絶対的な「正義」になった...  続きを読む

  • niniさんのレビュー   2009-12-06 00:29

    あるべき姿、市民逮捕!!

    なにが魅力なんだろう?それぞれの作品は結果としてカタチになっているが、結局はマイケル・ムーア監督の行動するチカラであろう。 社会的問題をただ批評や批判することは容易であるが、それが、人々にメッセージとして届くことはまれである。 マスメディアは...  続きを読む

  • ゆたかさんのレビュー   2009-12-24 03:15

    マイケルムーアはマジ。

     圧倒的自信と確信をもって薦めたい映画だ。マイケルムーア監督は真剣だ。そしてアメリカの普通の労働者の意識、感覚とぴったり波長が合っている。なによりも本気で怒っていることがビンビン伝わってくる。彼は本気で資本主義を断罪している。ブルジョアどもを縛り首に...  続きを読む

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