日曜日、大勢の観覧者が詰掛ける東京都写真美術館。雑踏の中、『森山大道展 “レトロスペクティブ1965-2005” “ハワイ”』へと侵入すれば、いつの間にか森山大道の壮大な世界に入っていた事に気づく。静寂、閉塞、妄執、雄渾、流転、情熱、希望と森山大道の眼鏡を通して、一人の人生を擦過したような
疑似体験を覚えてしまう。
1969年作『東京IC』は、静かな東京インターチェンジの様子が当時の貧しさと発展への渇望を訴える。
『ニューヨーク・シティ』『ヨコスカ』等、立て続けに写真界の慣習を打ち破った作品は、荒々しく、活気に満ち溢れていた。新たな芸術を感じさせた森山大道の60年代作品は、しかしこの時から氏の勢いと同時に向かい風が散見された。
刺々しく繊細な風景。
70年代の『犬の町』『夕張』『津軽海峡』等を見ると既に壁に気づきながら、氏の抜け出せないない閉塞感が見る者の心に突き刺さる。
1978年作『富士』は、なぜこのような角度から、こんなアレた質感、ブレた世界を作り上げてしまったのかと固唾を呑みながら鑑賞せざるを得ない。
しかし、苦しいなかでも、氏の内にある生への執念と情熱が生き生きと80年代以降の作品には現れていた。
『光と影』というタイトルで発表した作品の数々はまるで、荒廃した森が一夜にして、生まれ変わったような世界が開けていた。
2002年作『新宿』、2005年作『ブエノスアイレス』は人々の様子が躍動感に溢れていた。モデルの表情、皺ひとつひとつが苦しみ、幸せを訴えかけてくる。
そして、『ハワイ』へと続く旅は、栄光、挫折、再生全てを経験して突き進む森山大道の飽くなき探求が一つ一つ迫ってくる。
会場を出た後、千波万波の人生を経験したような、錯覚。余韻。
一つの写真展を通して、『森山大道展』という壮大な小説を読み終えた。