2013-09-30

【『もうひとりの息子』クロスレビュー】アイデンティティの崩壊 このエントリーを含むはてなブックマーク 

出生時の子どもの取り違えをテーマにした映画といえば、今の日本では「そして、父になる」(未見)が思い浮かぶが、「もうひとりの息子」は、同じ題材でも、民族、宗教、政治が絡み、より繊細で複雑なテーマを扱っているように思う。

イスラエルに住む家族とパレスチナに住む家族が突然に突きつけられる、18年間ともに暮らした息子が出生時に取り違えられていたという事実。脚本は、フランス人の女性監督を含む3人が調査を重ねて3年がかりで書き上げたというフィクションであるが、実際に、湾岸戦争の混乱時にこのような取り違えが何件も生じていたという。

父親たちは事実を認めることを拒むが、母親たちは向き合おうとする。18年育てた息子に変わらぬ愛情をもちつつも、壁の向こうで育ったもうひとりの息子にも愛情を感じる。

そして二人の息子たち。イスラエルでユダヤ人として育ったヨセフと、パレスチナでアラブ人として育ったヤシン。イスラエルとパレスチナ。ユダヤとアラブ。そして占領する側と占領される側。ヨセフはユダヤ教のラビから、ユダヤ人の母から生まれていない者はユダヤ人ではないと言われ、アイデンティティを失う。ヤシンは、本当はユダヤ人であることがわかると、兄から冷たく当たられてしまう。

民族とは何か。宗教とは何か。なぜ片方が占領し、片方が占領されるのか。様々なことを問いかけられる。

二つの家庭が背負った痛みは大きいが、希望を感じさせてくれるラスト。

二人の母親が美しく、また、息子たちも魅力に溢れている。このような繊細なテーマを見事に描いた監督に敬服。

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波野ノリスケ

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波野ノリスケ

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