骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2013-10-18 13:44


自分が取り違えられた子であることを知りアイデンティティを揺さぶられる少年たち

イスラエルとパレスチナの家族の日常生活を通し国家・民族の問題をも映し出す『もうひとりの息子』クロスレビュー
自分が取り違えられた子であることを知りアイデンティティを揺さぶられる少年たち
映画『もうひとりの息子』より ©Rapsodie Production/ Cite Films/ France 3 Cinema/ Madeleine Films/ SoLo Films

昨年の東京国際映画祭で最高賞の東京サクラグランプリと最優秀監督賞を受賞した今作。フランス系ユダヤ人のロレーヌ・レヴィ監督は、イスラエルとパレスチナの家族に起きた出来事について、すべて現地で撮影を行った。それぞれの家族の両親が、自分の息子が湾岸戦争の混乱の影響により出生時病院で取り違えられ、育てていたことを知る。それぞれの父親はその事実を認めることに逡巡し続けるが、母親たちは現実に向きあおうとする。そして息子たちもアイデンティティのゆらぎに戸惑いながら、お互いの家庭を行き交い、意見を交換しながら少しずつ状況を理解していこうとする。

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映画『もうひとりの息子』より ©Rapsodie Production/ Cite Films/ France 3 Cinema/ Madeleine Films/ SoLo Films

もちろんこの物語には長く続くイスラエル・パレスチナの国家・民族の摩擦と問題が刻まれているが、こうしたテーマを扱う他の作品に比べてより観客の心にスッと入ってくるのは、ふたつの家族の息子たちのある意味屈託のなさのリアリティと、10代の男の子なら誰しも感じるであろう、兄弟や友人とのコミュニケーションから生まれる多くの葛藤のひとつとして扱う。日頃からファッションにもこだわり、ミュージシャンを志しながら漠然とした将来への不安を感じているヨセフ。そしてパリから帰ってきたばかりで、妹や両親に気を配りながら、医者になることを夢見るヤシン。普通の男の子の等身大の葛藤と、この年代の子どもを持つ両親の悩み、そしてイスラエルとパレスチナの間の壁が同じ重さで描かれることに、この映画のリアリティがあるのではないだろうか。

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映画『もうひとりの息子』より ©Rapsodie Production/ Cite Films/ France 3 Cinema/ Madeleine Films/ SoLo Films




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映画『もうひとりの息子』
10月19日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

テルアビブに暮らすフランス系イスラエル人の家族。ある日、18歳になった息子が兵役検査を受ける。そして残酷にも、その結果が証明したのは、息子が実の子ではないという信じ難い事実。18年前、湾岸戦争の混乱の中、出生時の病院で別の赤ん坊と取り違えられていたのだ。やがてその事実が相手側の家族に伝えられ、2つの家族は、それが“壁”で隔てられたイスラエルとパレスチナの子の取り違えだったと知る……。

原題:Le fils de l'Autre
英語題:The Other Son
監督・脚本:ロレーヌ・レヴィ
製作:ヴィルジニー・ラコンブ、ラファエル・ベルドゥゴ
原案:ノアム・フィトゥッシ
キャスト:エマニュエル・ドゥヴォス、パスカル・エルベ、ジュール・シトリュク、マハディ・ザハビ、アリーン・ウマリ
2012年/フランス映画/101分/フランス語、ヘブライ語、アラビア語、英語/Scope 2.35
字幕:松浦美奈
協力:ユニフランス・フィルムズ
配給:ムヴィオラ
©Rapsodie Production/ Cite Films/ France 3 Cinema/ Madeleine Films/ SoLo Films

公式サイト:http://www.moviola.jp/son/

▼映画『もうひとりの息子』予告編


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