2013-05-25

『グランド・マスター』クロスレビュー: 初恋とはなんだったのか このエントリーを含むはてなブックマーク 

1990年代にいちおう社会人として働き始めたばかりの私は、山本政志「てなもんやコネクション」と一緒にウォン・カーウァイの初期3作をビデオで繰り返し見ていました。今となってはなんでそんなに好きだったのかよく分からないし、どんな映画だったのかも実はよく覚えていません。「恋する惑星」で金城武が歯を磨いてるシーンだけ除いて。でもだからこそ、ウォン・カーウァイは私にとっては忘れがたい青春の映画作家のひとりなのです。まるで小学校のときに好きだった女の子のように。

でも、いつしか小さな恋のメロディが消え入るように、ウォン・カーウァイ作品に対する興味を失ってしまった。バブルが弾けて時代の空気が変っていったのと関係あるような気もする。そして、まるで同窓会で数年ぶりに出会った初恋の彼女に会った感じで「花様年華」を見ることになる。そのときは、相変わらずのセンスですなー、とビミョーな印象しか残ってない。へー、キムタクとつきあってんだー、みたいな。

そして、今回たまたま縁あって試写会会場で手にしたチラシには構想17年、撮影3年との文字がビックリマークつきで踊っている。まさに復活を遂げた岡本夏生、じゃない、かつてのアイドル、かつての初恋のひとです。あ、もちろん私にとってですが。

薄暗い空間で、ほのかに浮かび上がる衣装の表面はまるで液体のように滑らかに動き、水滴はひとつひとつが粒立つ。あー、こんな感じだったっけねー。全編を通じて「映像美」が溢れかえっています。だから、見る人によっては最後まで震えが止まらない体験になるかもしれません。

もし、この作品と私のあいだで何らかのコミュニケーションが成立していれば、それはまた私にとってかつての憧れの存在に対する新たな感激をもたらしてくれたかもしれない、と見終わって思います。

シンプルに登場人物への感情移入ができなかった、というべきか迷います。

かといって、初恋というのは、ひとによっては、かけがえのない至高の体験であって、それを凌駕するインパクトをもたらすことは映画では難しい、なんてファンとして書きたくない。

また、最初から最後まで困った顔をしていたトニー・レオンはステキだし、ツィイーちゃんも相変わらずのかわいらしさ、メインのストーリーとの関係が希薄なカミソリの必要以上のトンガリさかげんなど、見どころ満載と書けなくもないですが、わたしにはどうしてもぬぐえない印象が残りました。

それにしても、17年ものあいだ何をやってたのか。

キーワード:


コメント(0)


nozacs

ゲストブロガー

nozacs