2013-03-20

『セディック・バレ』クロスレビュー:「これがさ、ほんとだよね。こうじゃなきゃ、うそだよね。」 このエントリーを含むはてなブックマーク 

1930年代に台湾で、高地原住民セディック族(生蕃)が、日本の台湾統治(理蕃政策=生蕃の教化現代化政策)に対して起こした武装蜂起「霧社事件」を描く。

見終わって思わず口に出た私の感想は「これがさ、ほんとだよね。」というものだった。

いきなりよその国の人間がやってきて、
自分たちの領地に無遠慮に入りこみ、今まで普通にしてきた行事を、さんざんばかにしたあげく、低俗だからと禁止したらどうするだろう。例えばお盆の迎え火。七夕。門松。しめ縄。

似た経験は、私にもある。

高校の英語の授業に、教師の知り合いだという、
気のいいアメリカのおじさんが飛び入りし、その日は授業まるまる質問タイムとなり、「何を聞いてもいいんだよ! でも変なことは聞かないでね」と笑いながら教師に言われたときには、はっきりした屈辱感があった。

何かやっている人ならともかく。普通の田舎のおやじに何を聞けというのだ。
しかも相手の国語で。いい子で質問して、かつ質問に間違いがあると、
おじさんと先生が2人で直してくれるという。ありがたいこと。
英語なんて義務的にやらされてるんだから、しろうとあいてに機嫌取らせるようなことさせんなよ!勘弁してくれないかな、と思ったものだ。

どこの国の制度をマネしたかわからない共通一次(当時)を2回受けてやっと入った大学は、
「大正時代、植民地朝鮮で日本総督府が行った文治政治のほうが、武断政治より罪が深い」という卒論で出た。

それから30年。

霧社事件の名を覚えていて、かつこの映画にビビアン・スーが出て、出演後の発言が取りざたされたのを読んだ記憶があり、
「これは見ねば」と身構えて臨んだ試写だったが、
感想は「そうだよね。こうなるよね」という冒頭のようなごくシンプルなものになった。

私でもこうしたい。

「首狩り族」であるセディック族の考え方も自然に盛り込まれていて、違和感はない。
幅広の剣で一撃のもとに相手を倒すことで、むしろ殺生の怨念の連鎖を断つ行為が出草(首狩り=斬首)である、と私は理解した。

日本でも、儀式にのっとった切腹では、相手に対する尊敬が
斬首の助太刀(介錯)で表されていなかったか。
近く感じられ、殺陣が美しくて生々しくなく、
日本人相手であってもなくても「爽快感」があった。

自分の自由を、長い年月奪ってきた相手を、
その相手が行ってきたような、じくじくとしたいやらしい「同化」のような方法ではなく、
「一撃=短時間」で解消してみせる。恨みを晴らす。
しかも選抜の少人数で、アナログで。
この「かつて持っていた自由への憧れと回帰」は、ここではやられる側として描かれる日本人である私から見ても、はっきり「美」だった。

武器庫を襲う算段まで組み込んだ、計画立った初日の襲撃が終わった後、
主人公が酒を飲んでいるのを見て思わず
「もうのんじゃうのか…。」と落胆のため息が漏れたものだ。

私のこの評ってテロ賛美でしょうかね。
しかし、テロ賛美と「判官びいき」のボーダーラインはいったいどこなのだ。

このフィルムと相通じるなにかは、正直、自分の中にも流れている気がする。

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『セディック・バレ』は史実を記録するドキュメンタリーではなく、「人間の誇りとは?」を問うのがテーマの英雄譚で、完全な映画である。

事実関係は設定として最大限反映されているが、その設定の中で動く、登場人物のものいいや感情は、現代のものに置き換えられているようだ(日本語のせりふで判断するとそうなる)。
現代の観客が感情移入しやすいように、こういう選択をしたのだろう。その流れでか、モーナ・ルダオも(劇中登場する他の頭目のように)妹を日本人の巡査に嫁がせていたことには触れない。心情が追い難くなるからだろうか。

上映時間の長さは感じず、とくに一部「太陽旗」が終わった後は「早く二部を見せてほしい」と思った。主人公モーナ・ルダオ役が圧倒的な存在感の林慶台に変わったばかりだったからかも知れない。

一部がいい。はりつめた緊張感が圧倒的である。
とくに冒頭(日本統治前)山奥でのセディック族の狩りのシーン。

後の戦闘でのセディック族の人並みはずれた活躍の前触れにもなるこのシーンは、短いが、
彼らの感じる、狩猟生活の美や誇りを、説明ぬきで納得させてくれる。

二部では、「(最初から)死を意識した戦い」を強調するためか、とくに終わり近くなるに従って、哀感が加わり、ストーリーの流れがやや冗長になったように思えて残念だった。

それと各部、ものがたりのはじまりと終わりにゆったりと流れる、セディック族のうたがとても美しい。1994年の韓国映画『風の丘を越えて』を思い出した。

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DORORO123

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